インフレターゲットは有害だ by Scott Sumner

スコット・サムナーのブログから”Inflation targeting is a very bad idea“(February 27th, 2011)。きのうのクルーグマンと合わせて読むといいかも。

(あとご興味があれば翻訳者のブログ記事「準マネタリズムご紹介」シリーズも…)


ひとつ前のポストのコメント欄でMark Sadowskiが英国について面白い話題を振ってくれた。

11月、HICPは3.2%に、コアHICPは2.5%に上昇した。税率が一定であると想定して算出されるHICP(訳注:”HICP-CT”と呼ばれる比較的新しい公式統計)は1.5%の上昇だった。これに相当するコアHICPの数字はないが、単純に引き算すれば0.8%だったということになる。つまり、英国のインフレヒステリーはほとんどナンセンスかもしれない。

このブログ周辺では、インフレ目標よりも物価水準目標が優れていて、さらにNGDP水準目標はもっといいと合意に至っていると思う。しかし、インフレ目標で行く場合は少なくとも「インフレ慣性(inflation inertia)」も測定しなくては駄目だ。英国の総合HICPは不安定なエネルギー及び食料という要素、そして二度のVAT引き上げで深刻なまでに歪んでしまっている。インフレ慣性を正しく測定すれば、今の英国の本当の危険はインフレではなく、デフレだ。

いろいろな情報を集約すると、BOEは英国の総需要の増加を抑えるためにこの5月に金融政策を引き締めようとしているようだ。財政緊縮と同時にそんなことをすることがどれほど間違った方針であるかはいくら強調しても足りないくらいだ。そしてこれはBOEのインフレ目標政策という目的によって正当化されている。これが悪いマクロ政策だと思うなら、その帰結はインフレ目標の有用性を再考する必要があるということになるはずだ。BOEが5月に金利を引き上げることが正しい考えだとすると、Q4に財政緊縮によってGDPが下落したことも良いニュースだったということになるよ

マークのコメントはインフレ目標の一番深刻な問題の一つを指摘している。いろんな異なるインフレ率の数字があり、論者によってどれについての話なのかが違う。総合指数、コア指数、HICP-CT、VAT固定指数、などなど。このため「ギャップ」ないしグレーゾーンが作り出され、中央銀行はいったい緩和と引締めのどちらをすべきなのかがハッキリしなくなっている。名目GDPならば。もし英国が名目GDP目標を採るなら、5月に引き締めをするという議論にはならず、逆に金利を0.25ポイント 引き上げて緩和するか、もっとQEをするかの議論になるはずだ。

財政刺激で対処できると論じるリベラル陣営の人もいる。そうではない。財政刺激が効くのは総需要を引き上げられる時だけで、インフレという前提が必要だ。(短期総供給曲線(SRAS)が完全に水平になることはありえない)。中央銀行が間違ったインフレ率を目標にしているいときに、財政刺激で総需要を引き上げることはできない。それどころか財政刺激の追加によって総需要をさらに傷めかねない。実際、英国は前労働党政権による財政刺激のために最高税率を50%に引き上げた。これによって、シティの高給金融プロフェッショナルを優遇することで保たれていた、大陸諸国に対する供給面の大きな比較優位が失われたのだ。金融引き締めと高い税負担は毒になる組み合わせだ。フーバー大統領に聞いてみればわかる。

私は二年前オバマ大統領に、クリスティ・ローマーと話してほしいと書いた。彼女は金融政策派だと見ていたし、別のエントリでは、ラリー・サマーズが大統領への接触を遮断しているのかもしれないと書いた。Fed理事の3つの席を長期間空いたままにしておいたオバマはおかしかった。彼は金融政策の重要性を明らかに理解していなかった。クリスティ・ローマーのニューヨーク・タイムズの新しいコラムで私の疑問を裏付けている。彼女は金融刺激が必要だと気づいていた。それがゼロ制約下でも効果的でありうることを明確に理解していた。彼女は水準目標の重要さを確かに知っていた。彼女とラリー・サマーズを同じ部屋に入れたらほとんどの人はサマーズの方が印象にの来る人物だよね。オバマにとってもそうだったのだろう。大間違いだった。

コメント欄でRam がこのローマ-の記事を引いてこう書いていた。

以前から彼女はさらなる金融緩和を主張していたが、緊急の金融緩和がどんなに必要であるか心中思っていたことを言わなかったことははっきりしている。サムナー先生が以前のエントリで、ラリー・サマーズがオバマ政権のディック・チェイニーの位置にあることにもメリットがあると書かれたのは疑問に思っていた。ローマーは財政刺激を明確にサポートし続けていたが、ラリーサーマーズが経済が大崩壊する前の2008年半ばに座大規模な政府支出を志向する財政刺激の必要性を議論していたことを思い出した。ローマーは背後から良い金融政策を支援することにこだわり、それでサマーズは彼女をインナーサークルに入れなかったのではないか。知りようもないが、彼女がホワイトハウスを去った直後に劇的にタガが外れたということは注目に値する。(訳注:最後の文の翻訳、かなり自信なし。”Hard to know, but it’s remarkable that she’d make this dramatic of a pivot so soon after leaving the White House.”)

旧タイプのケインジアンと、それよりずっと洗練されたニューケインジアンを簡単に区別する方法がある。金利がゼロ以上であるときに財政刺激を主張するかどうかだ。あのクルーグマンさえゼロ金利になるまでは財政刺激の出番はないと認めている。リーマンショックの直後の2008年9月、Fedはインフレを恐れて2%だった金利を引き下げることを拒んだ。実際、その一か月前、Fedの中の数人は金利を引き上げたがっていた(そして確かECBは金利を上げたはず)。そういう環境で財政刺激は効かない。

しかし古いケインジアンをメチャクチャに非難する気にはなれない。世界中の中央銀行が混乱し無力感に包まれている中で、フラストレーションから財政刺激に頼りたくなるのも理解はできる。

ほとんどの人々は金融政策がどれほど有効であるか、どんなふうに財政政策を中和するか(特にゼロ金利下でについて)をわかっていない。財政刺激の方は直観レベルの把握がしやすい。歴史をひも解いても、金融刺激は信じられないほどのパワーがあること(ゼロ金利であっても)、さらに名目GDPに問題が生じた時に金融刺激が必要だということを直観レベルで把握していた経済学者はわずかしかいない。一人はアーヴィング・フィッシャー、もう一人はミルトン・フリードマン。金融政策のパワーに気づく人は多い。金融刺激の必要性を理解する人も多い。惜しいことに、両方分かる人がいない。我々の世界がいまこうなっているのはこの事情によるわけだ。