ヘリマネ話、バカバカしいだろ by Scott Sumner 

スコット・サムナーのブログから。”Helicopter drops are a really, really, really, really bad idea”(14. July 2010 ) を翻訳紹介します。紹介の動機は、あたかもサムナーが

『デロングやMark Thomaには「ヘリマネなんかやったら悲惨な事になる。お前らに出番は無い」と言ってる側から、「俺のシステムは、銀行へのヘリマネだからキレイですが何か?」と主張している』

と言っているという、本当とは思えない声がネットから聞こえた気がするので、発作的に\(^o^)/。日付はちょっと古いですのでご注意ください。


昨晩こんな夢を見た。

私: ハニー、この夏は講義をしないことにしたよ。

妻: あらスコット、それならゴルフに出かけてゆっくりできるわね。

(私:ショットガンを掴み自分の片足を撃つ)

妻: どうしたの?!

私: ゴルフに行かないって君に信じてもらうためだよ。

妻: はあ、ただゴルフに行かないって約束すればよかったのに。

私: でも君は信じないと思ったんだ。

妻: でも最初から私を信じさせようとしてくれなかったじゃない。すぐ信じたのに。

私: えっ!

妻: あなたがこんなに変な人だとは知らなかったわ。

(友人のポール、部屋に入って来て)

ポール: もちろん君は彼を信じられないよね。義足を使えばゴルフコースに出られちゃうからね。

妻: あなたのお友達はもっと変人ね。

読者の皆さんの頭も私のようにひねくれていたら、これは現金のヘリコプタードロップ(ヘリマネ)の話だと分かるよね。私にとって流動性の罠の議論はまるで非現実的。ヘリマネの議論は、そもそも名目金利がゼロに近いときに総需要を拡大することは難しいという前提から始まっている。(それは間違い)。その上、さらに20ドル紙幣にマイナス金利を付けるとか、ヘリコプターから現金をバラまくとか、狂気じみた議論が続く。そして最後に、流動性の罠の話を持ち出した張本人が強引な理由で「それは罠ではなかった」と結論するなんて。

この議論は冒頭からしておかしい。中央銀行が総需要を押し上げられない「罠」があると仮定している。変動相場制で法定不換マネーの枠組みでは、中央銀行は望みさえすればいつでも総需要を引き上げることができる。記録が残る歴史上、これに失敗したことは例は皆無だ。ただ、見かけがゼロ金利で緩和的に見えても、人々が「中央銀行は何もしないだろう」と見做したときだけは、多くの場合総需要は増加しない。

インフレを起こすのにヘリマネは必要ないと言うクルーグマンは正しい。では仮に、飛行機から政府が全国民一人につき50枚の100ドル札を撒いたとしよう。それでも「政府は近い将来一人5000ドルの税を課して回収するつもりだ」と皆が思うなら、何の影響もないだろう。でもこれはほーんとに馬鹿げている。税には死荷重損失があるから「効果が無いヘリマネ+税」は単なる富の破壊でしかない。ゴルフに行かないことを妻に信じてもらうためにわざわざ足を撃つが義足をつければ何とかゴルフができてしまう私の話みたいだ。理論的には可能だよ。でもどうしてそんなことをするの?もし政府が無謀な狂人集団みたいにふるまって断固としてハイパーインフレに突進しているなら、彼らはハイパーインフレに突き進む無謀な狂人集団であるという方に賭けた方がよさそうだけど。

[財政政策のお偉方はそういううバカげたことをしているじゃないかと言う人もいる。そうだね。でも彼らは印刷機を使うという選択肢を知らないんだ。]

そう。私はヘリマネはほぼ確実に総需要を押し上げると思っているよ。ただそれは恐ろしいアイデアだ。その理由?Fedが明確なインフレ目標あるいはNGDP目標を採っていない状況でこれをやると、ハイパーインフレになる。人々は恐怖するに違いないけれど、無理もないだろう。あるいはFedが明確な物価水準目標と同時にヘリマネをすることを考えても、やらない方がいいスキームしか設計できないよ。だってFedが4%のインフレ率にコミットすると宣言した場合、人々は今ある2兆ドルのベースマネーをそのままにはしておこうとはしないだろうからかないだろうから。(準備金の付利で誘導されない限りね。)

まとめると

1. ヘリマネは効かないだろうとも、ほぼ確実に効くだろうとも言える。

2. ヘリマネはほーんとバカげたアイデア。特に、伝統的な道具を使ってインフレ化を試みる前はなおさら。Fedの理事たちは、必要な時のための必要な道具を持っていることの効果について何度も宣言しているじゃないか。つまり、単に彼らは経済にこれ以上の総需要が必要だとは思っていない。どうして最初にするべき簡単なことをしないで核兵器を取り出すの?ただ単にもっと高いインフレが望ましいって言うとかさ。

3. ヘリマネはハイパーインフレを引き起こしかねない。それは今より悪いだろ。

4. 明確な4%のインフレ目標ならハイパーインフレ期待を防げるし、Fedは恐らくベースマネーを引き下げることになるよ。つまり、ヘリマネ不要。

ハッキリさせるために言うと、ヘリマネはハイパーインフレを起こしかねないから馬鹿げてると言いたいだけではないよ。背理法的に持ち出すとしても実に有害。「FedやECBやBOJが高いインフレを望んでいるけれど、その方法がない」、みたいな見方を誘発してしまうから。でもそれ自体間違っている。彼らは高いインフレを望んでない。そして彼らが気持ちを変えた場合、どうすればいいかは彼ら自身十分わかっているはずだ。

PS. このテーマを取り上げたタイラー・コウエンに賛成。そのうえで、彼の分析で問題かなと思うのは彼がヘリマネというアイデア自体を重視しすぎている点と、ヘリマネでもインフレ期待が起こらないという仮定だ。コウエンは正しいけれど、ヘリマネの話を真面目に防御しようとすると、ショットガンで足を撃つけど義足でゴルフに行くひとの話に敏感な人たちの術中にはまるんだ。

私のところへ来るなら、日本銀行が2%のインフレを目指すと宣言したけれど実現できないような日が来てからにしてくれ。そしたらショットガンで足を撃つ話を始めようじゃないか。それまではこの話に意味ないよ。9.11陰謀説みたいなもの。

だいたいゴルフは嫌いだし。

PPS. 書き終わってから気づいたけどど、読者の皆さんは私がFedにある一般銀行の準備金に”マネーを落とす”話をしていると受け取ってしまったかも。念頭に置いていたのは国民に現金を撒くこと。準備金は秘奥儀だし、最近は短期公債と同等だからインフレ期待はほとんど起きないよ。書いたのは本当のヘリマネのことで、減税や公開市場操作ではないから。