New York Times “公的債務についてドイツが学んだこと” by Tyler Cowen

以下は7月16日のニューヨークタイムズに掲載されたタイラー・コーエンの記事・Economic View – What Germany Has Learned About Debt – NYTimes.comの翻訳。


アメリカを含む多くの国で経済を不況からジャンプスタートさせるための財政出動への要請と公的債務削減への誘惑を断ち切ることが叫ばれている。

しかしながらドイツは財政支出削減のくじを引くことに決めた。ドイツは6年以内にほぼ財政を均衡させる計画と平行して成長率を高め失業率を減らすことに成功した。財政政策と経済回復についてアメリカはドイツから学ぶことがあるであろう。

20世紀の歴史が現在のドイツの行動を説明するかもしれない。振り返ってみると、ドイツは2回の世界大戦に負け、ワイマールハイパーインフレーションを経験し、国は二つに分割され片方は共産主義によって破壊されたわけだ。アメリカ人が経済の不調と考えるものはドイツ人にとっては相対的には反映に見えるのかもしれない。この視点は明るい未来が全ての面倒を見てくれるという楽観を仮定していないため、長期的な財政規律へのより強い警戒を支持するものとなるであろう。

この悲観が多くの場合誤りであったと判明しても、それは地震保険や火災保険を買うようなもので、時として有用だ。毎年火事に遭うかどうかを基準に政策を評価することは出来ないのだ。

ケインジアンは財政刺激は負のショックに対して経済により多くの —より少なくではなく— 保護を与えるものであるとして、景気循環の現時点においての財政再建を批判してきた。しかしこの議論は有効であろうか?

ドイツでの近年の財政刺激策は明らかにポジティブなものではなかった。1990年の再統合以来、ドイツ政府は旧東ドイツの再建と旧東ドイツ住民の生活水準を西ドイツレベルに高めるための巨額の財政支出を債務でまかなってきた。何百万ものあらたな消費者が経済に加わった。

これらの政策はドイツを政治的に統合したが、経済的な統合にはあまり成功しなかった。初期のブームの後には生産と雇用の不満足な年が続いた。ドイツの税負担は高止まりし、平均的な旧西ドイツ人の生活水準は他の多くの裕福な国と同じようには成長しなかった。

旧東ドイツ人により多く消費させようという努力は国の経済成長の歯車と会うようなスキルを彼らに持たせることに比べればあまり重要ではないことがわかった。だから、ドイツ人が赤字財政による財政支出や国内消費に頼ることに対して懐疑的なのは驚くに値しないわけである。

近年、ドイツは高い経済的地位の再獲得の兆しを見せている。政策立案者達は長期的な視野に立ち返っており、過去10年の間により大きな賃金の伸縮性を持つ労働市場へと自由化した。そして2016年までに財政を均衡させる憲法改正案 —すなわち構造的な赤字がGDP比0.35%を超さないという案— が通過した。

経済の動きの鈍い他のヨーロッパ諸国に囲まれてドイツは輸出が好調で資本はほぼ完全雇用である。そして労働者の多くは休暇を返上して生産にいそしんでいる。ドイツの失業率はアメリカよりも低い7.5%であり、なおかつ低下している。

アメリカンケインジアンはこの社会民主主義モデルを許容する気は全くなく、内需と公的債務ではなく輸出に大きく頼った姿勢を批判している。しかし、ドイツの再興をサポートしているのはユーロの下落だけではない。

他のユーロ諸国のほとんどは適切な投資と改革を怠ってきたためドイツに匹敵するような成功を収めていない。さらに言えば、ユーロは2001年以来の平均価値よりも依然として高く、これは近年のドイツの成功が通貨の減価に帰属させることが出来ないことを意味する。

いずれにせよ、ドイツ人達は質の高い機械や技術(金ピカの自動車だけでなく)を輸出していて、それらは他の国の回復を助けるような製品なのだ。相対的に生産性の高い国家が不況を理由に成功している政策の変更を求められるというのは奇妙な状態だと言える。

ドイツ政府はまた公的債務削減への長期的なコミットメントを行ってきた。ドイツの公的債務のGDP比率は70%以上という不健全なレンジをさまよっており、先進国の中で最も低い出生率の国でもあるため、誰が将来の年金の負担をするのか、という問題が持ち上がる。

しかし多くの投資家はドイツ国債を安全と見ているが、それは部分的には政府が財政問題に敏捷かつ責任を持った対応をするという評判をもっているからである。研究や教育といった重要な長期的な分野を除いて政府は政府支出の削減を行っている。

ドイツは相対的にはアメリカよりも高い政府支出レベルを維持するであろう。しかし、ドイツの公務員は立案能力 —議会がアメリカの法律に注入する無駄と短期的な思考を制限する役割— に優れている。またドイツの政治論壇において減税はいずれ増税をもたらすということがよく理解されている[1]

ドイツ経済は完璧からはほど遠い。高い税負担と低い出生率に加え、ドイツの銀行には潜在的な債務不履行リスクがある。そしてこれらの機関は透明性を欠いている。さらに、より貧しい国々がECB にドイツが支持したいと考えているものよりも緩和的な政策を求めている。

にもかかわらず、負債が公的であろう民間であろうと、負債を増やすことによって問題が解決するわけではないということはドイツ人に共通の態度である。実際、負債は一時的に回復の夢を見させてくれ、真の解決を先延ばしできる。支出の増加は多くの場合より根源的な問題に対する簡単な修理に過ぎないのだ。

アメリカがドイツを真似するべきかどうかということが私の主張ではない。ドイツ政府の政策は長期的な傾向においてそれほど間違っているのだろうか?我々がドイツに教えることが出来るのか、それとも我々がドイツから何かを学べるのであろうか。選択は我々の手にある。

  1. このパラグラフは訳に自信がないです。 []