原文はScott SumnerのMore evidence that the BOJ is not trying to create inflation(December 09th, 2010)です。遅くなりましたけど一応訳しておきます。
12/24追記:やまがたさんからいくつか翻訳の不備をご指摘頂いたので、修正させて頂きました。
1/4追記:ayakkaさんの御指摘により、「粘着的賃金」を「硬直的賃金」に修正させて頂きます。
法定不換通貨を用いる中央銀行がインフレを起こそうとして失敗したことなど未だかつて無い、と私は度々主張している。人々の中には、日本の長い期間に渡るマイルドデフレを示して反論してくる者もいる。日銀が意図的に超緊縮的金融政策を追求していたという私の議論をすべては繰り返すつもりはない。その代わりに、テイラールールの推計にニューケインジアンDSGEモデルを使う三人の日本人エコノミストによる新しい研究の成果を引用したい。矢野浩一・飯田泰之・和合肇による研究によって、日銀が、1980年代と1990年代前半におけるおよそ2%のインフレ目標から、1995年以降にはおよそ-1%の目標にシフトしたように思われるのがわかった。
残念ながら、私が大学院に通ったのは、数学と計量経済学的スキルではなく、主に経済的直観1 を教えられていた石器時代に遡る。なので、私の非常に賢いコメンター達がこの論文に関して私を助けてくれる事を希望している。彼らがマイナス1%のインフレ目標というのをどうやって推計したのか、私にはよくわからなかった。彼らの手法は妥当だと思われるかね?
パート2:The Economistから三つ
The Economistに投稿した私の最近の3つのエッセイにリンクする時間がないほど忙しかったんだよ。
私はすぐにNational Reviewに記事2 を書かなくてはならない。書き上がったらお知らせしよう。
パート3:だれも私の政治的見通しに注意を払うべきではない。
私は、オバマが更なる財政刺激策を行いそうにないと言ったが、彼はずっと多く行った。もし彼が更なる刺激策を行うなら、ケインジアンどもが狂喜するだろうと私は思ったんだけど、逆に彼らは激怒しているようだね。刺激策のアナウンスメントは予想インフレ率を向こう五年にわたって一年あたり8ベイシスポイント上げるように思われた。これには二つの見方がある。プラス面を見ると、これは財政刺激策には明確な乗数がある事を示している。マイナス面を見ると、これは支出に見合うほどの価値はない。私としてはFICA減税3 はサプライズであるという印象を受けたんだけど。実質金利は13ベイシスポイント上昇し、名目金利は21ベイシスポイント上昇した。(リカードの等価性は明らかに成立していないから、その議論はここまででいいね。)
だが、私はまた、オバマが機会を逸したと信じている。もしあなたが、私のように硬直的賃金が高失業率の一部を説明すると信じているなら、給与税の従業員負担分ではなく、雇用主負担分を減税する方がはるかに道理に適っていただろう。我々が財政刺激策をやる必要があるなら、小さな政府が望ましい、及び刺激策として望ましいという二つの理由で私は常に減税を支持する。減税が歳出増よりはるかに景気刺激的であるという点で、私はクリスティーナ・ローマーに同意する。
パート4:EMH4 に関する、エンドレスな、そして無意味なディベート
EMHについての私の最近の投稿へのコメントにいくつかお答え。君達がEMHを擁護しようとすると、ある種の人々は激怒する。このディベートは、私が自由意志に関してする議論を私に思い起こさせる。私は、出来事には原因があるか、または偶然であるかどちらかだと指摘する。どちらの場合にも、自由意志の入り込む余地はない。私の相手は、彼の目の前にある塩入れと胡椒入れのどちらを拾うか自由であると言い返す。このディベートは、本当に決して交わることなく、それ故に殆ど時間のムダだ。自由意思について反対したり、EMHを擁護したりする議論でこれ以上時間を浪費すべきではないと私は確信した。
私はEMHについて少なくとも六つの投稿をした筈なんだが、いつも以下の反応が返ってくるんだ。私が投稿の中でする具体的な議論と彼らが関係ない場合でさえ:
1. あれやこれやのバブルを幾人かの人々が正しく予測したということを指摘される。私が見るに、もし君が価格が下落すると予測するなら、およそ50/50で君は正しい。地球に70億人の人々が居る事を考えると、あれやこれやのバブルが弾けるのを予測したという人がその中に何人か居ても私は驚かない。私を驚かせるのは、バブルを予測する事で世界的に有名になった人々が、重大な予測ミスもしているにもかかわらず有名になっているという事だ。
2. 一部のコメンターはアノマリーを指摘するね。私は、何百万ものアノマリーがあるだろう事をEMHが予測すると指摘するよ。別のコメンターは、いくつかのアノマリーはむしろサンプル外の予測でうまく予想されたと言い返すね。すばらしい、でもそれは当たり前だよね。多くのアノマリーは(刊行前はそれなりに予測力があったのに)刊行されたとたんに現実と合わなくなってしまうという論文もいくつか読んだように思う。私が誤解していたのかね?
3. 一部の人は実験経済学を指摘するね。私は、実験結果が常に現実世界と合致するわけではない事を示した研究を指摘するよ。一部のコメンターは、EMHと合わない実験的証拠が反駁不可能である事を見出したようだね。だが、これもまたその証拠の一部だ:
しかし、人々は学習するのだ。同じグループが15ラウンドの市場を経験する三回目までには、バブルは大抵消滅する。
たった三回ゲームをプレイしただけの大学生よりも、現実世界のトレーダーの方が抜け目がないと私は思うんだがね。
4. 私を誤解しないで欲しいんだが、私は(1987年の株の暴落のような)EMHに反する証拠は存在すると思っている。私の本当の議論は、最初からずっと、反EMH viewが文字通り役に立たないという事なのだ。そして、どんな実用的価値も持っていないものは、理論的価値も全く持たない。対照的に、EMHは大恐慌に関する私の研究で非常に役に立っている。
5. 数人がバブルを否定した業界筋に言及したけど、その人の予測が正しかったから有名になったというバブル否定論者の具体的な例を、誰も私に示さなかった。バブってる間、私と会話した教養ある人々はすべて悲観論者で、「これはバブルで、いずれかの時点で破裂するに違いない」と主張している事に気付く。「これはもっと高騰する」と言う人々には滅多にお目にかからない。なので、バブル否定に成功したら知的エリート層から何らかの称賛が得られるべきであると私は思う。人が「真剣に考える人5 」であると見なされたい場合、悲観主義が唯一のオサレなスタンスである事を考えると、バブル否定論者こそが空気に流されない論者として評価されるべきだと思うね。
ホント遣る瀬無いと感じるよ、私が返答しきれないほどの沢山のコメントが寄せられるのに、本当に私の投稿での具体的な議論に取り組んでるのはその内10%か20%くらいしかないんだから。なので、私はあきらめて、バブルについての投稿を止めるつもりだ。もちろん、バブルの存在を否定する別の面白いやり方を見つけたら、直ぐに私は誓いを破って別のEMH擁護論を投稿するつもりだ。だって、私が自由意志なんて持ってない事は論理的に示されているんだから。
PS. これまで程には沢山ブログを書けないくらい、元日が終わるまで超忙しい状態が続くだろう。(いくつかは書こうとするだろうけど。)普段は私からクリスマスカードをよく受け取っている人へのお詫び。「メリークリスマス」、これを以て私の祝日の御挨拶とさせて下さい。
PPS: ブライアン・カプランとアーノルド・クリングが私の投稿を論評したのにさっき気付いた。ブライアン・カプランにお答えすると、ファーマは、明確なバブルが膨らみ続ける事を具体的にかつ正確に予想した事によってではなく、EMHを考え出し、そして擁護する事によって有名になったのだと私は思う。もう片方の奴は知らない。アーノルド・クリングのバブルの定義は世にある数多くの内の一つだ。私が問題にしているのは、それが間違っているという事ではなく、仮に正しかったとしても、むしろそれが役立たずの概念であるという事だ。バブルと呼ぶ事6 が暗黙の予測でない限り、それは役に立たないと私は断言する。
PPPS. 私に例の論文を送ってくれた飯田泰之に感謝。彼は今年のエコノメトリック・ソサイェティの世界大会(ESWC2010)でその論文がプレゼンされた事を示してくれた。
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