Fedは何をなしうるか? by David Beckworth

以下は、David Beckworth, “What Can the Fed Do Now?”(Macro and Other Market Musings, July 9, 2010)の訳。


Fedに何かできることがあるかって? たくさ~んある、いやマジで。というのも、(1)Fedのお偉方の最近の発言を見るに、自分たちが望むならば彼らにできることはたくさんあると信じているようだし、(2)現在よりももっと厳しい経済状況においても金融政策は極めて有効であったことが証明されてきているから。問題は、今日までのところ、Fedがさらなる金融緩和にうってでようとする意思を見せていない(さらなる金融緩和に抵抗してきた)という点にある。ここ最近になって政策道具箱の中をゴソゴソと漁っているような節は見えるけれども、これまでのところ、Fedはその政策道具箱の中におさまっているビッグガン(big guns)のすべてを取り出して使用するまでには至っていない。

さて、現下の状況においてFedが使用しうるビッグガンにはどういった種類のものがあるんだろうか? とあるFedのエコノミストらが執筆したこの論文(pdf)によれば、Fedが使用しうるビッグガンは大きく3つに分類できるということである。

(1)将来における政策短期金利(FF金利)の水準に関する一般大衆の期待形成に働きかけること、(2)政策短期金利をゼロ%に引き下げるために必要となる規模以上に中央銀行のバランスシートを拡大すること(「量的緩和」)、(3)一般大衆が保有する証券の相対的な供給量(存在量)に影響を与えるべく中央銀行のバランスシート上の資産の構成を変化させること

私の個人的な見立てでは、第1のビッグガンが(3つのビッグガンのうちで)最も重要なものである。この第1のビッグガンは、単に将来における政策金利の水準に関する期待形成というにとどまらず、期待形成一般に対する働きかけとして読み替えうるであろう。期待形成一般に対する働きかけというのは、Fedが当面の期間にわたって(for the foreseeable future)ヨリ高めのインフレ率あるいはヨリ高めの物価水準の達成にコミットすることを一般大衆に納得させる、ということである。Fedによるヨリ高めのインフレ率あるいはヨリ高めの物価水準の達成に対するコミットメントが信認を得ることになれば、実質金利が低下することになり、貨幣需要が減少することになり(つまりは、貨幣の流通速度が増加することになり)、そして家計その他の主体のバランスシートのさらなる毀損が食い止められる(そしておそらくは改善する)ことになるだろう。しかしながら、現在のところ、この(今しがた拡大解釈したかたちでの)第1のビッグガンは、Fedの政策道具箱の中でほこりをかぶって眠っている状態である。よく知られているように、他の2つのビッグガン((2)と(3))は、金融危機対策として実際に使用され、その過程でFedのバランスシートは拡大し、(バランスシート上の)資産の組み換えが生じたのであった。これら2つのビッグガン((2)と(3))は金融危機(credit crisis)を抑制する上では有効であったものの、貨幣の流通速度を安定化させる上ではそれほど(金融危機の抑制に対して示した効果と比べれば)効果を示してこなかった。これまでのFedによるビッグンの選択に関してイライラさせられる点は、第1のビッグガン単独でも他の2つのビッグガン((2)と(3))が共同で成し遂げてきたことと同程度、あるいはそれ以上の成果を達成しえただろうと信じるに足る理由があるということである。第1のビッグガンは、ルーズベルト大統領によって大不況(Great Depression)期において実際に使用され、大きな成功を収めたのであった。ルーズベルト大統領による経験を想起すれば、Fedが今日においてもすでに第1のビッグガンを試していてもおかしくなかったのではないかと示唆されるのである。上でも取り上げたとあるFedのエコノミストらによる論文では、ルーズベルト大統領によるこの経験に関しても触れられている。

この経路が機能した可能性を示す歴史上のエピソードは(ここで問題となる政策当局者は中央銀行家というよりは政府側の人間ということになるけれども)、1933年におけるフランクリン・ルーズベルトの米大統領就任に引き続く時期である。1933年~1934年の間において、それ以前の時期において見られた深刻なデフレーションが急激に(デフレのストップ、そしてインフレへと)反転することになり、株価は急上昇し、経済は急速に成長することになった。 Romer (1992)は、この驚異的なほど急激な経済の回復は、マネーサプライの急成長―マネーサプライの急成長は、ルーズベルトによるドル切り下げの決断と不安定の度を高めるヨーロッパからの資本流入、その他の要因によって生じたものである―と密接に関連していることを説得的なかたちで論じている。Temin and Wigmore (1990) は、急激な景気回復のキーは、一般大衆がルーズベルト大統領による一連の政策を「レジーム転換」(“regime change”)として受け止めた点にあると主張している。デフレ克服に対してほとんど関心を示さなかったそれまでの政府当局者、否、その実、将来のインフレのごく小さな可能性よりもデフレの方を好んでいたかのように見えるそれまでの政府当局者とは違って、ルーズベルト大統領は、デフレーションの終焉と経済のリフレーション実現にコミットしていることを実際の行動を通じて明確なかたちで公にしたのであった。ルーズベルト大統領にとっては、単に物価上昇を望んでいる旨を口で主張するだけという選択肢もあり得たものの、彼の先任の大統領(訳者注;フーバー大統領)であれば無謀と見なしたであろう政策を実際に採用することを通じて、ルーズベルトは一般大衆に対して経済状況は根本的に変化したのだとの強力なシグナルを送ることになったのであった。Temin-Wigmoreの仮説を受け入れるならば、ルーズベルト大統領による為替政策、金融政策の転換が伝えることになったシグナルこそが1933~34年におけるデフレ克服にあたって中心的な役割を果たしたと捉えることができるのではないかと思われるのである。

以上の記述に基づけば、期待の転換には、中身を伴う行動―マネタリーベースの実際の急拡張―と一般大衆による(ルーズベルト大統領が先導した)レジーム転換の認識とが必要だったということになる。ルーズベルトによるこれら一連の行動はうまく機能し、クリスティーナ・ローマー(Christina Romer)によれば、これらの行動は1933~36年における堅調な景気回復を支えた主要な理由となったのである。ルーズベルト大統領の経験は、今日のFedに対して(ルーズベルトが実施した政策と)似たような行動をとるべきであると示唆している。それでは(ルーズベルト大統領の経験を踏まえるならば)、Fedは第1のビッグガンを使用するにあたってどのような手続きを踏まえればよいだろうか? まず第1に、Fedは、明示的なインフレーション・ターゲット、物価水準ターゲット、あるいは名目GDPターゲットのいずれかを導入し(私個人の好みとしては、インタゲよりは物価水準ターゲットの方を、物価水準ターゲットよりは名目GDPターゲットの方を勧めるけれども)、具体的にどのターゲットを採用するにしても、(採用することに決めた)ターゲットの実現にコミットする旨を公に宣言する必要があろう。第2に、明示的なターゲットの採用に合わせて、ゲームが変化したこと、つまりは嘘偽りのない本物のレジーム転換である旨を明確にするために派手なPR大作戦(PR blitzkrieg)に打って出る必要もあるだろう。もちろん、これらの前提として、Fedが(統一的な見解として;訳者挿入)このような変化を引き起こす気があるとの決意を固める必要があることは言うまでもない。現在のところ、Fedのお偉方全員がかような変化を歓迎するかどうかは明らかではない。

Fed内部の人間の誰かが私のアドバイスに耳を傾けてくれることを祈るばかりである。最低でも、本エントリーで幾度か引用した論文の執筆陣たるFedのエコノミストらが耳を傾けてくれることを望むところである。何しろ、この論文の執筆陣のうちの一人はたまたま現在Fedを率いていることでもあるし。