増税してもいいけど、そしたら僕はもう働かないよ by Gregory Mankiw

Mankiw,Gregory “I Can Afford Higher Taxes. But They’ll Make Me Work Less.” (The New York Times, Oct.9,2010)の訳

11月2日はアメリカの中間選挙の日。税金と社会保障は重要な争点、ということで、少し時間が経ってしまいましたが、Himaginaryさんのブログで2010年10月15日に取り上げられたマンキューのブログエントリ 「おいらは税金上げても大丈夫だけど、その代わり仕事減らすよ」の全文訳をやってみました。マンキューの当該エントリに対するブロゴスフィア内の批判的な反応は、同じくHimaginaryさんの、マンキュー「左派陣営のブログを炎上させるって楽しいな♪」にまとめられています。


政党間を二分する重要な問題がある。年間250,000ドル以上稼ぐ者に対して増税するか否か、だ。民主党は納税者にはもうちょっと金を出す余裕があるという。共和党は、すでに最も高い限界税率に直面している人々に対する増税は経済を疲弊させると主張する。

そんな訳で、高額納税者の一人を例にとってケース・スタディっていうのをやってみたら役に立つかもしれないって思ったんだ。幸運なことに、手近にいい例がある。僕だ。

ハーバード大学の教授として、また何冊もの売れている教科書の著者として、僕はちょうど今回の増税案の対象となる所得の範囲内にいる。僕は-確かにナルシストっぽいだろうが-増税が自分にどう影響するのか考え続けていた。そうやって僕が考えたことは、より広範な政治的問題に光を投げかけることができるんじゃないだろうか。

まず僕は、民主党がある一点において正しいことを認める。僕はまだより多くの税金を払える。僕の所得は、スター俳優や、ヘッジファンドのマネージャーほどではないけれど、それでも十分に良いほうだ。他の大勢のアメリカ人と違って、僕は家計のやりくりに苦労していない。

はっきりいうと、僕は、嫌になるほど満足している、とまで言える。その理由の一つには、僕は典型的な中の上のクラスの生活スタイルにほとんど関心がない。プライベート・ジェットで世界を飛び回らないし、それほどヨットやフェラーリを欲しいと思わない。僕は1987年以来ずっと住んでいる家を一軒だけ所有している。後数パーセント程度増税されても生活が窮乏するなんてことはない。

それでもなお、共和党が強調するように、増税は僕の決断に影響を与える。僕には常時追加の収入を得る機会がある。それは、企業家団体向けの講演だったり、法律事件のコンサルティングだったりする。客員教授としての講義、サマースクールでの指導、記事を書いたりなんてのもある。僕は少しだけそれらの仕事を請けて、ほとんどは断るようになるだろう。

次に、僕が追加の仕事を引き受けている動機の一部は報酬目当てであるってことも認めるよ。もっと大きな家に住みたいとか、フェラーリが買いたいからっていうことじゃなく、僕の三人の子供たちのために、いくばくかのお金を蓄えておきたいんだ。僕の子供たちは、決して有閑階級のような暮らしを送ったりはしないだろうけど、でも僕は、彼らがそれぞれの家を買うときの頭金に困ったり、彼らの子供たちを大学にやるお金の工面に苦労したりしないように願っている。

たとえば、ある編集者が1,000ドルの原稿書きの仕事を持ってきたとしよう。もし全く課税されない状態であれば、僕の手元には追加で得た1,000ドルがそのまま貯蓄として残る。それを、仮に8%の利回りで運用できる株式にでも投資して、今から30年後に僕が死んだら、子供たちは10,000ドルを相続することになる。これが複利計算の魔法ってやつだ。

さて、今度は税金を考慮に入れて計算してみよう。ブッシュの減税が満了*1すると、僕は追加の所得の39.6%に相当する連邦所得税を納める。このほかに段階的な控除の廃止が影響して、僕の実効限界税率は1.2%ポイント加算される。僕は医療保険税も払っている。これは最近の医療保険制度改革法案により、2013年から3.8%へ引き上げられることになっている。また、マサチューセッツ州には、一部は連邦控除として戻ってくるものの、5.3%の州税を納める。これらを合計すると、税引き前に1,000ドルだった所得は、523ドルしか残らない。

そして、蓄えは8%の利回りで運用なんてできない。僕が投資した企業は35%の法人税をその獲得所得から納める。だから、配当にせよキャピタルゲインにせよ、5.2%の利回りにしかならない。それに、その所得に対しても僕は連邦税と州税を納めることになる。その結果、僕が税引き後に得られる収益は4%程度にしかならない。523ドルの貯蓄が、30年後には1,700ドルにしかならない。

そこで、僕の子供たちがお金を相続する。遺産税の出番だ。遺産税の限界税率は来年55%に戻る予定となっている。議会はそれを少しばかり減らそうとしているけれど、概ね、その1700ドルが僕の遺産に含まれるとすると、僕の子供たちはその内の約1,000ドルを受け取るだろう。

ここでまとめ。無税の状態では、編集者から割り当てられた仕事を請けると、子供足りに追加の10,000ドルが残せる。課税されると、それは1,000ドルになる。実際、一度全ての税制を考慮に入れて計算すると僕の家族の限界税率はおよそ90%になる。これでは僕が、僕に打診されたお金を稼ぐ機会のほとんどを断るのも無理もないでしょう?

それとは対照的に、オバマ政権が提唱する増税がないとすると、数字はまるっきり違って見える。僕にはより低い所得税率と、より低い医療保険税率が適用され、控除の段階的廃止も遺産税もない。さっきの原稿書きの仕事を引き受ければ、子供たちに2,000ドル残してやれる。それなら働く動機が2倍になる。

もしかしたら、あなたにとっては、僕が市場に提供しているサービスが減ることなんて気にならないかもしれない。あなたがこの記事の読者の一人であったとしてもね。でも僕は、世の中には、あなたが必要とするサービスを提供する高額納税者が確実にいるんじゃないかと思う。

たとえば、ある俳優か、ある小説家の次回作を楽しみにしているとか。または、お気に入りの歌手があなたの住む町の近くでコンサートをするとか。もしくは、いつの日かあなたが高度な技術を持つ外科医の治療を必要とする時がくるかもしれないし、あなたの子供が地元の矯正歯科医のお世話になるかもしれない。僕のように、これらの個人はインセンティブに反応する。(事実、複数の研究で、高額納税者は特に課税に敏感に反応するとレポートされている)彼らがより高い税率に直面すれば、彼らの供給するサービスはより減少する。

合理的な人間どうし、政府による所得の再分配を果たして行うべきか、行うとすればどの程度行うべきかについて意見が異なることもあるだろう。そして確実に、せまりくる財政赤字には、支出と税の間で厳しい選択が必要となるだろう。だけど政府の富裕層に対する課税について考えるときに、それを富裕層ばかりが負担するなんていう奴がいても、だまされないようにね。


訳注 *1 Economic Growth and Tax Relief Reconciliation Act of 2001(2001年経済成長のための減税調整法) の主な内容は所得税減税と遺産税の段階的廃止、贈与税率の引き下げであり、これらは2010年までの時限措置となっている。

今回の勝手に感謝は暇人先生に。

ところで、税の話題といえば、日本では税制改正大綱が毎年12月に決定されます。来年度に向けてどのような改正(改悪?)が行われるのか、気になるところです。