中国の中央銀行は何を企図しているのか? by Stephen Williamson

当該エントリは、Stephen Williamson “What is the Chinese Central Bank Up To?”(2010/10/20付)の翻訳である。翻訳に当たっては、私typeAと同じくLJPのメンバであるbrad氏に多大なるご助力を頂いた。ここに感謝の辞を述べたいと思う。誤訳等あれば、コメント欄にてご指摘下さい。


中国のことがニュースで多く取り上げられるようになって以来、中国人民銀行の金融政策を理解するのに、中国国内の金融市場の文脈で考えることが有用であるように思われる。中国人民銀行は勿論webサイトを持っており、ここで中国人民銀行のバランスシートがどうなっているのかを見ることができる。特筆すべきはバランスシートの資産側が外貨建て資産で殆ど占められている点だ。およそ資産の80%は”外国為替”、私はその殆どが米国債だと推測している。

もう一つの特色は、負債の部が”債権”でおよそ4.7兆元(私はこの桁は正しいと思う)あることだ。これら債権は人民銀行手形、すなわち中央銀行によって発行された有利子証券である。中国人民銀行は固定相場制を維持するために人民銀行手形を使ってきた。米国との固定相場制を原則的に保持するために、中国人民銀行は外国為替の購入を行っており、それは概してこれを”不胎化”(奇妙な言葉だ-これが何から由来しているか誰か知っているだろうか)して行っている-外貨よりも人民銀行手形を発行することによって-。注目すべきはバランスシートの資産の部の約1.6兆元が”対政府債権”であることだ。固定相場制下で為替操作しているとき、中央銀行は一般的に永久には不胎化し得ない。売りオペのため有利子の自国通貨建て資産を使い果たしてしまうからだ。しかし、中国人民銀行はその限界に束縛されない、中央銀行は自身の有利子証券(人民銀行手形)を発行することが出来るので。それはおそらく準備金よりも流動性が少ないだろう。勿論不胎化のために発行するのだ。充分に統合された金融市場においてはこれは通貨安競争の敗北を意味するが、しかし中国においては内外での金融の制限があり、これが機能しているのだろう。だが、中国の通貨量が年約20%増加し、年約3%のインフレーションが続いている限りにおいて、そうなるはずはない。

現在、昨日公表された限りでは、中国人民銀行は”利上げを行っている”。もし貴方がこれが(通常時における)フェデラル・ファンド金利の引き上げと同じようなものだと考えているなら、貴方は間違っている。中国人民銀行は預金金利及び貸出金利を25ベーシスポイント引き上げ、それぞれ2.25%、5.56%とした。これからも明らかなように、今回の利上げは預金金利及び貸出金利に関連しており、この場合は〔フェデラル・ファンドのレートの引き上げとは意味合いが〕異なっている。これら預金金利及び貸出金利は金融機関の金利である。中国における銀行システムはいくつかの国有銀行によってなりたっており、これらの中国人民銀行に管理された銀行の金利は事実上預金金利の上限と貸付準備金率貸出金利の下限を規定している。中国のいくつかの金融市場における金利は恐らく管理されていないが、この例が明らかにするように、例えば、銀行間貸付金利はそもそも中国人民銀行によって管理されたレートに誘導されている。

先日の中国人民銀行の動きは金融引締であったのだろうか。これは複雑な問題である。私たちは政府からの独立性を持っていない、事実上金融システムを牛耳ってもいる中央銀行を相手にしなければならない。利上げを行う動機の一部は非金融仲介的な現象であるように思われる。これは預金の上限金利規制と高インフレがあった1970年代の米国で起こったことと似ていなくもない。預金や住宅以外に、個人資産を貯蓄する手段が中国においては殆どない。インフレ率をより高率にすることは、貯蓄は実質マイナス金利の預金のようなもので、これは不動産投機をより魅力的なものとする。もし全ての金利が上昇したら、何が起きるだろうか。銀行への預金はより魅力的になり、貸出金利の下限に縛られ、貸付は魅力的でなくなる。銀行はいうまでも無く米国債という余分な預金を米国債にかえて置いておくことができる。明らかに彼らは既にそれを大量にしてしまった。恐らく結果は外貨需要の増大であり、私たちは金融政策の引締効果として考えさせられることになるだろう。貨幣は次第に魅力のあるものでなくなり、中国で必要な準備金への需要が高まる。しかし、最終的には、インフレ率が低下する場合と比べて、中国人民銀行の政策スタンスの変化はないと考えられる。市場に自由があるならば、管理された金利を変動させることは、純粋な(恐らく不完全ではあるにせよ)フィッシャー効果による調整とみなすことができるからだ。

【2010/10/23 15:30追記】erickqchan氏より、”PBC bills”についての理解の誤りへの指摘があり、一部修正を施した。中国人民銀行は他の国の中央銀行と異なり、自身で有利子証券を発行することができる。これを以て中国は不胎化を行っている。訳中では”PBC bills”を「人民銀行手形」とした。

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    最後のパラグラフを私なりに訳してみました。

    (略)利上げの動機の中には、金融仲介機能の縮小現象を起こそうという意図も含まれているように思われる。縮小現象というのは、預金の上限金利規制と高インフレがあった1970年代の米国で起こったことと似ていなくもない。預金や住宅以外に、個人資産を貯蓄する手段が中国においては殆どない。インフレ率が上昇した場合、預金の実質利回りは負となり、それによって住宅投資はたいへん魅力的になる。もし全ての金利が上昇したら、何が起きるだろうか?銀行への預金はより魅力的になり、また貸出金利の下限が制約になる範囲では(訳注1)、借り入れの魅力は減ずる。もちろん銀行は余分な預金を米国債で運用することができる(訳注2)。どうやら銀行は既にかなりこれを行っているようだ。おそらく、その結果は外部から貨幣を調達する動き (the demand for outside money) を正味で増やすことになり、これは金融引き締めに相当する効果とみなすことが出来るかもしれない。中国では貯蓄の手段を制限しているため、貨幣の魅力はより低く、貯蓄への需要はより高くなる (訳注3)。しかしこのことで、中国人民銀行の政策が、インフレ率のより低かった時期のそれから変化するようなことは、結局はないと考えられる。管理された金利をこのように変動させることは、自由経済の下では市場が起こすであろう、フィッシャー効果に相当する調整(恐らく不完全ではあるにせよ)を行っているにすぎないと見てよい。

    (訳注1) 自由経済では、ある投資が行われる条件は次式で表されます。
    (期待収益率)ー(リスクプレミアム)>(国債の金利)
    しかし中国では、(キャッシュを持たない企業にとっては)右辺は下限貸出金利となり、これは国債の金利より高く設定することが可能です。

    (訳注2) これは中国の利上げが米国で金融緩和の効果をもたらすことを示唆します。普通の開放経済とは逆のことが起こるわけです。

    (訳注3) ここの論理は分かりません。