通貨戦争を防ぐ方法

Barry Eichengreen & Douglas Irwin の How to prevent a currency war の翻訳。2009年3月18日の“Competitive devaluation to the rescue”の翻訳も参照されたし。Eichengreenは「通貨戦争」を「通貨切り下げ競争」ではなく、むしろ国によって非対称的な切り下げ、特に切り下げをしない国で保護主義が台頭することを懸念しており、保護主義の台頭と結果としての世界貿易の縮小を「通貨戦争」という意味で使っているようです。


金融危機に陥ってから3年目、大恐慌との類似点はもう尽きたと考える向きもあるかもしれないが、まだ終わりではない。むしろかつてないほどの勢いで次が迫っている。次なる恐れは関税と報復につながる通貨戦争が1930年代の時と同じような国際貿易システムの崩壊をもたらすことだ。

それにはしかるべき理由がある。1930年代の経験から為替レートの引き下げ競争は保護主義に力を与えるという意味で深刻な不況よりももっと危険な状態をもたらすことが言えるからだ。

実のところ、1930年代に極端に関税を引き上げたり輸入割当を引き締めたのは不況や失業が最悪だった国々ではなかった。各国を比較すると、生産の落ち込みの深さおよび期間と保護主義の水準の上昇との間や、失業の増加の大きさと保護主義の範囲との間に関係を見出すことはできないのだ。

1930年代に大きなダメージを受けた国々の方が保護主義的な傾向を見せなかった理由は単純である。大恐慌の到来は需要の崩壊をもたらした。それはつまり輸入の急激な減少をも意味した。結果としてほとんど全ての国で輸入の水準は極めてシャープに減少した。製造業はたしかに問題を抱えたが、輸入品との競争は問題ではなかったのだ。

今回も同じことが起こった。2008年から2009年に危機が世界に広がる中で、輸入はGDPよりも早く減少した。貿易の減少により輸入競合的な部門の国際競争圧力が低下したため、保護主義へと逃げ込む必要性があまりなかった。世界銀行の試算によると、危機の間の貿易の2%の減少が保護主義の高まりによるものだとされている。それとは対照的に1930年代には世界の貿易の減少の約50%が保護主義に原因を求めることができる。

この違いはどこから来るのだろうか?

答えは通貨紛争(currency disputes)だ。1930年代に関税を引き上げ、輸入割当を引き締めたのは為替レートの管理能力に欠けた国々だった。つまり、金本位制からの離脱が遅れた国々のことである。1931年にイギリスとそれに続く2ダースほどの国が金本位制から離脱し、通貨の減価を許した後も金本位に拘った国々はデフレ圧力に苦しむことになった。経済を守るために何かしらする必要性にかられた国々は「為替レートダンピング」義務を課し、自国通貨高によって失った競争力を相殺するために輸入制限を課す保護主義に傾斜した。

しかし貿易制限はGDPと物価の下落スパイラルを抑える役には立たなかったため国内のリフレの方法としては機能しなかった。またこれらの政策は弱体化した銀行システムを安定化させることもなかった。対照的に金融緩和を行いリフレした国々はより効率的に金融システムを安定化させ、より早く回復しただけでなく、当時の有毒な保護主義を避けることもできたのだった。

現在、アメリカは1930年代の金本位制を拘泥した国になぞらえることができる。中国の元に対して一方的にレートを調整することができないでいる。雇用の増加率は不満足な水準に留まったままである。そしてデフレ懸念は去っていない。これらの問題に対処する方法を提示できないでいるため、保護主義が台頭してきている。

では近隣窮乏化政策に陥ることなくこの状況に対処するために何をすべきだろうか?報復の応酬?デフレに陥った1930年代に保護主義の台頭を抑制できた最も重要な方法は金融政策をつかって物価水準を高め経済回復を刺激したことだった。今日においてもそれは同じである。デフレ懸念が遠のき、GDPと雇用がよりしっかりと成長するようになれば保護主義の台頭は消え失せるであろう。

だから問題の元凶は中国ではなく、あらゆる手段を使ってデフレを克服し雇用成長をV字回復させようとしないアメリカの中央銀行・FRBなのだ。金融緩和によって議会が雇用なき回復について誰かを—中国を—悪者にする圧力は軽減されるだろう。ようやく日本銀行が行った道[1]をFRBもまた進むべきである。

中国はアメリカドルにペッグしているわけだからもちろん、アメリカの金融緩和はアメリカだけでなく中国もリフレするであろう。しかしこれは想定内のことである。中国経済はいまだにアメリカ経済の数分の一の大きさに過ぎず、FRBのバランスシート拡大能力は現実的には無制限なのだ。

中国はその方法には不満かもしれない。中国のインフレ率はすでに許容範囲を超えるほど高くなっている。幸運なことに中国政府はこの問題に対処する方法を既に持っている。そう、元の切り上げだ。

  1. 訳注:最近の日本政府の為替介入と日銀によるバックアップを指すものと思われる。 []