通貨切り下げ競争による回復 by Barry Eichengreen

Barry Eichengreenの2009年3月18日の論説・Competitive devalution to the rescueの翻訳。この論説が書かれた3月の翌月2日にロンドンでG20のサミットが予定されていたことを念頭に読んでください。


G20諸国が協調的な金融政策をとることができれば、近隣窮乏化政策と罵り合う非難合戦を回避することができるかもしれない。


日を追うごとに我々は1930年代の悲惨な経済史を再現することが運命づけられているかのように見えてきた。我々は1929年の株価の暴落に匹敵する株式市場の崩壊を経験した。1931年の時と同じような銀行危機も経験した。我々は東欧経済の崩壊に1931年にウィーンで起きた金融危機と全く同じ事態を見出すことができる。オーストリアでの危機に対する国際決済銀行(BIS)の行動が各国の論争によって阻害された時と同じように救済案の策定について主要国は論争している。国際協調への残されたわずかな希望が打ち砕かれた1933年のロンドンでの世界経済会議の再現を我々は目にしようとしている。

まだ何か残っているとしたらそれは恐るべき通貨切り下げ競争の亡霊であろう。1930年代には恐慌から抜け出すために必死な各国は次々と輸出主導の回復を目指して通貨切り下げを行った。しかし、非協調的な通貨切り下げは貿易相手の恐慌の更なる悪化をもたらすだけであった。最終的には通貨を安定させていた国々も同じような対応を余儀なくされたのだった。

結局のところ、通貨切り下げ競争は誰にも利することはなかった、と言われる。なぜなら全ての国が同時に通貨を切り下げることはできないからだ。唯一の成果は、為替レートの不確実性を高め、世界的な貿易システムを混乱させ、国際社会の緊張を高めたことだけであった。いうなれば金融保護主義である。

いま、まさにこの通貨切り下げ競争の淵に我々はいると警鐘が鳴らされている。イングランド銀行(BOJ)はポンドの減価政策を隠そうともしていないし、つい先週もスイス国立銀行がスイスフランを減価させるための為替介入を行った。次は日本?アメリカ?それとも中国?我々は30年代の時と同じことを繰り返して自分で自分を撃とうというのか?

実のところ、この近隣窮乏化というよく知られたストーリーは1930年代についても現在の状況についてもミスリーディングなのだ。1930年代に各国が次々に通貨の切り下げを行ったのは事実である。どの国も他国に対して相対的な競争力を勝ち得なかった。そしてまたどの国も輸出の拡大による恐慌脱出に成功しなかった。なぜなら、輸出できる相手がどこにもいなかったからだ。しかし、重要だったのは輸出の拡大ではない。重要だったのは、通貨防衛の必要性がなくなり[1]、各国が次々に金融緩和に踏み切れたからだ。そして、この世界的な金融緩和こそが経済回復のきっかけとなりまたそれを持続させたおそらく最大の要因なのである。

各国が金融緩和を行うまでのプロセスは順序もバラバラで混乱を招くものであったのは事実であり、もし各国が為替レートの極端な変動を避ける協調的な金融緩和ができたならば、より望ましい結果をもたらしたであろう。しかし、こういったことは初めてではないが、協調への合意に失敗した。最も危険な状況にあった国々が一方的に通貨切り下げに踏み切ったことはやむを得なかったのだ。

どちらにしても何も行われないよりは「通貨切り下げ競争」を通じて金融緩和が行われたことは良いことであった。通貨切り下げが早かった国ほど回復も早かったのだ。そしてついに、苦痛に満ちた5年の後、恐慌は収束したのだ。どの国も通貨切り下げを行い、どの国も回復に向かったのだった。

一言で言えば、これが今我々のいる状況である。ポンド安の一部はイギリス経済の不振の深刻さを反映しているが、同時にイングランド銀行がどの国の中央銀行よりも大きく、そしてより早く量的緩和に動いたことを反映している。中央銀行が金利引き下げのために次々と国債を買い上げれば通貨安になるのは当然であるし、ECBとFRBがイングランド銀行ほど素早く行動しなかったことを考えれば、なおさらである。そしてこのような事態においては、この積極的な量的緩和こそまさにイギリス経済の生命にとって必要な薬なのである。

スイス国立銀行がこれにつづいた。高まるデフレ懸念に対応するために量的緩和を宣言したのだ。スイス国立銀行はイングランド銀行が行った国債の購入ではなく外貨と社債の購入を先週から始めたが、最終的な結果は同じである。その新たなレジームのもとでの、その初日に、3%に及ぶ急激な為替レートの下落をもたらしたのである。

中央銀行が経済が必要とする処方を適切に行ったためにポンドとスイスフランは減価した。他の国々の中央銀行は自国通貨が増価していく中で、デフレ懸念がより喫緊の問題であると結論し、より早く量的緩和へシフトするであろうか?シフトしたならば、為替レートはポンドとスイスフランに対して元の水準に向かって反転するであろう。そして、全ての国が量的緩和をすれば、全世界が渇望している、さらなる金融緩和の恩恵を受けることができるであろう。

もちろん、主要国が協調して金融政策を行えればなおのこと良い。そうすれば為替レートは一方へ大きく偏ることはないだろうし、世界的な貿易システムへの混乱も起きない。互いの政策を近隣窮乏化政策と罵る非難合戦も起きない。4月2日のロンドンでのG20でそのような協調に合意することだってできる、、、とは思えない。

  1. 訳注:固定相場を維持する必要がなくなったため。 []
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    BOEがBOJになってます。