1938? by Stephen Williamson

Williamson, Stephen 1938? (New Monetarist Economics, Sept.6,2010)の訳

追記:okemosさんよりGI Billというのは退役軍人に対する、政府の援助に関する法律だということを教えていただきましたので訂正します。

追記2:macronさんより、GI Billの訳語について「復員兵援護法」でよいのではないかとご助言いただきましたので、追加訂正します。

追記3:F.D.R.(Franklin Delano Roosevelt)の人名表記を、F.D.ルーズベルトから、原語の発音に近いF.D.ローズヴェルトに変更しました。


我々は検討すべき重要な金融政策問題を抱えている。だが、今朝のNYTに載ったクルーグマンのコラムは、私がひとつ前に投稿したブログポストに直接関係していることもあって、その内容が度を超えていることに我慢ならなかった。

クルーグマンは1938年と第二次世界大戦時のアメリカ合衆国の財政政策から、教訓を引き出したいと考えているのだ。この引用部分は彼の主張を要約している:

1938年頃のアメリカの状態を見るのは、ためになると同時に希望を失わせる。ためになるというのは、それに続く回復の本質が今日の議論を支配している主張を反駁するものであるからだ。そして、希望を失わせるというのは1940年代に起こった奇跡のようなことがもう一度起きるのを期待するのは難しいからだ。

クルーグマンはこれを的確な表現だと思っている。「1940年代に起こった奇跡」という言葉に注目して欲しい。40年代の丸10年について言及しているので、私はその言葉を文字通りの意味に受け取ろう。それは彼の主張の中でも大事な部分みたいだ。するとどうやら我々は、第二次世界大戦をある種の奇跡と考えることになっているらしい。

1938年の不況は大恐慌の経験の中でも、鍵となる部分である。それは長い間マクロ経済政策の物語の重要な部分であり、以前は特にクリスティーナ・ローマーによって、金融危機に対するケインジアン流の対応を擁護するのに使われた。F.D.ローズヴェルト*3政権は、1936年にはGDPの5.5%に相当する財政支出赤字の状態から、1938年には、(概ね)均衡財政へと移行した。ケインジアンの判断では、それは財政政策における緊縮政策が1938年の不況を深刻にしたということになる。ミルトン・フリードマンとアンナ・シュウォーツが、著書『合衆国貨幣史』で金融政策について、主に1936年から1937年にかけて預金準備率を2倍に引き上げたことに大きな要因があった、と主張している。ハロルド・コールとリー・オハニアンは、大恐慌後期の特徴を、F.D.ローズヴェルトの労働市場政策に起因するものとして説明できるとしている。これは明々白々な例とは程遠い。当時の政府の赤字財政の状態は、1938年の不況に対してほとんど何もしなかった、と私を説得する方が容易だろう。

さて、クルーグマンの主張のうち、最もひどい部分は以下のとおり。そう、彼は第二次世界大戦についてこう言っている。:

赤字財政支出は好況を作り出したんだ。そしてその好況が長期にわたる繁栄の基礎になった。

では私の示した図を時系列に見ていこう。

depression

私がここに示しているのは、1929年から1950年までの間の、実質GDP、消費(cons)投資(inv)そして総政府支出(gov)だ。*1 GDPの大きな増加に伴い、大規模な政府支出の増加が見られる。では民間部門では何が起こっているだろうか。第二次世界大戦中の民間消費支出と投資支出の下降に注目して欲しい。乗数効果と加速度効果はどこにいったんだろう。もしこれがケインジアンのいう現象ならば、フリーランチ(free lunch)が見られただろう。民間部門の支出が増加していたはずだ。もちろん、我々は何が起こっていたか知っている。ちくしょう、これが戦争だ。アメリカ政府は国内生産において大規模な転換を実行した。若者は挽肉になりに(=殺されるために)ヨーロッパや太平洋に送られた。女性は働きに出て、みんな長時間労働した。でも労働力は住宅や高速道路の建設に使われなかったし、人々はキャデラックを買わなかった。資源の再分配は、部分的に市場メカニズムではないものを通して行われていた。価格統制と配給だ。私が話したことのある誰一人として第二次世界大戦中を良い時代だと思ってはいない。私が思うに、多くの人々にとって、1943年と1933年を交換できたら幸せだっただろう。ここで重要な教訓は、雇用のレベル、もしくは失業率は、経済厚生を測るのには不適切だったってことだ。

それでも、信じられないことに、第二次世界大戦後、アメリカの経済は自ら回復の道を進んでいった。戦争遂行努力による資源の再分配とは無関係に、生産は民間使用という新しい方向に転換していった。クルーグマンは第二次世界大戦中の政府支出がわれわれの経済に何らかの効果を与え、正しい方向に導いたと言いたいようだが、私にとってそれは、民間経済は放っておいても顕著なほど弾力的だ、という見方に有利な証拠のようにみえる。あきらかに復員兵援護法( GI Bill) *2-政府の干渉は、戦時から平和時の経済へと移行するのを助ける効果はあったが、だからといって、第二次世界大戦が「長期にわたる繁栄の基礎となった」などというとは頭がイカれている。

クルーグマンは、経済を手に負えない子供のように見ている。あなたはその子を部屋に閉じ込めて何をすべきか指図しないといけない。でないとその子はとんでもない悪さをするだろう、と。私の考えでは、子供に必要なのはルールの基本的枠組みだけだ。もちろん、私はその子のためにしなければならないことがいくつかあることを知っている。私はやんちゃないじめっ子たちからその子を守ってあげる必要があるし、教育を与え、健やかに成長するように、何枚かの小切手を切る(=教育費や養育費を支払う)必要もあるだろう。しかし、私の本当に大事な役目とは、その子を自由にさせ、邪魔をしないことだ。もし、私が子供を部屋に閉じ込め続ければ、その子は今日の宿題は終わらせるだろうが、長期的に見れば、立派に成長してはくれないだろう。その上、私は永久に小切手を切り続けることになるだろう。


*1原注 : 図中のGDP構成要素の計算が合わないことに注意して欲しい。すなわち、GDPが消費、投資、政府支出の合計より小さくなっているように見える。chain-weighting法が実質GDPの算出に使われており、実質GDPの要素は、実際、決して計算が合わない。この問題は、この例では極端に表れている。

*2.訳注 : GI=米兵、bill=ドル紙幣、とかけているのかな、と。 復員兵援護法(GI Bill)というのは退役軍人に対する、主に大学の学費の補助となる、政府の援助に関する法律。 http://bit.ly/txkkl

*3訳注:発音は下記リンクを参照 The Merriam-Webster Online Dictionary

http://www.merriam-webster.com/