来日記念!「ステファニー・ケルトンはワシントン最大のアイデアを持つ」

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ステファニー・ケルトンは、嘲笑されるのには慣れっこだ。キャリアの大半でそうされてきた。大学院時代からだ。

1990年後半、彼女はケンブリッジ大学で後にシティグループのチーフエコノミストとなるウィレム・ビュイターの経済学を受講していた。彼女があるモデルにおける貨幣について質問すると、ビュイターは振り向き、怒りで顔を真っ赤にして、彼女を怒鳴りつけた。「カネが大切と思うような奴は」と彼女は昔を振り返る。「ひとり地下室でゴムホースで自分を叩き喜ぶような人間と同じタイプだ。」

その言葉は強烈な印象を残した。48歳になり、16年以上にわたって経済学を教えてきたケルトンは同じ台詞をもう一度を繰り返す。一語一語正確に再現しようとするかのように。ビュイターのコメントをもらおうとしたが返事はない。

それ以来、彼女は(多少は)慇懃なバージョンのお叱りを受け続けてきた。保守派は彼女が「魔法のお金の木」の崇拝者だ非難し、ポール・クルーグマンは2011年のニューヨークタイムズのコラムで、彼女のアイデアは「『肩をすくめるアトラス』でのジョン・ゴルトのスピーチと不気味なほど似ている」―これは彼女に近い左寄りの人々がよくやる侮辱だが―と描写し、それはハイパーインフレを準備するものだとはねつけた。

政府はいくら支出しても、使い果たしたり破産したりすることはできないというケルトンの核にある考えは、ビュイターやクルーグマンに踏みにじられた頃からほぼ変わっていない。しかし世界の側が変わりつつあるようだ。いま彼女は米国の権力エリートの重要なメンバーであり、MSNBCのクリス・ヘイズやBloomberg TVのジョー・ウィーゼンタール とテレビ番組でやりあい、ニューヨーク・タイムズ紙とウオール・ストリート・ジャーナル紙に論説を書いている。

ポッド・セーブ・アメリカ紙とフィナンシャル・タイムズ紙はポッドキャストで彼女を起用したいと考えている。さらに彼女はパブリック・アフェアーズと書籍を出版する契約を交わしており、ブルームバーグビューも彼女を新コラムニストとして契約したが、彼女自身は講演スケジュールを考えると、それらの仕事に時間を割く価値があるか自信が持てていないそうだ。5月だけで、彼女はラスベガスに飛んで国際通貨基金 (IMF) の元チーフエコノミストとの討論を行った後、モナコに向かい人工知能に関する委員会の議長を務めていた。その後は、ロンドンの貴族院へ。

誰もがケルトンの仕事を欲しがっている。それは彼女がキャリアの中でずっと育ててきた単純かつ過激なアイディアが、民主党政治の次の目玉になるからだ。彼女はこれをジョブギャランティーと呼ぶ。この連邦政府のプログラムは、景気がどのような状態であっても、国内すべての郡門で働きたいと思っているすべてのアメリカ人にきちんとした仕事を提供するものだ。

これは、彼女の貨幣観を現実世界に表現させたものだ。彼女の考えでは、政府はこのプログラムの費用に直接制約されることはない。深刻に懸念されるべきはインフレであり、ジョブギャランティーは米国ドルの価値の管理方法に大変革をもたらし、連邦準備制度理事会は物価の抑制を理由に失業を発生させることができないことになる。

ジョブギャランティーは政治家好みのアイデアだ。単純に誰もがきちんとした仕事を得られるというのだから。この案は上院でも支持されつつある。バーニー・サンダース議員の事務所は、エリザベス・ウォーレン議員とキルステン・ジリブランド議員の支援を得て、同プログラムを創設する法案を準備している。超中道派のコリー・ブッカーまでもが、そのパイロット版を承認している。

米民主党の代表的シンクタンクである米国進歩センターですら、このコンセプトを微妙に評価し始めている(だいぶ薄まっているが)。

ケルトンのアイデアが突然リスペクトされるようになった理由は、大衆が最先端の経済理論を求めたからでも、ワシントンの政策立案者たちが突然自省したからでもない。これには、権力と政治的正当性についてのストーリーだった。政治家は経済学者をどのように使って社会政策を阻止したり推進したりするのか、また、経済学者はどのようにカクテルパーティーや高級ディナーや高級会議室に出入りすることによって信頼を築いていくのかのストーリーがあったのだ。

カリフォルニア州立大学サクラメント校から中退した経験もあるケルトンが、サンダース、そしえ億万長者であるウォール街のトレーダーという風変わりな連中の両方からリスペクトされている。結果論から考えたとしても、どういう険しい道のりを経てきたら今の地点にたどりつけるのか、ほとんど不可能なことのように見える。

「貨幣は金持ちのところでは育たない。」
ステファニー・ケルトン

5年前、ケルトンははカンザスシティのミズーリ大学で教鞭をとっていたが、そこの資金の一部は、ヴァージン諸島に住むウォール街のベテラン、ワレン・モズラーが節税の一環で出資したものだ。モズラーの政治姿勢は柔軟だ。現在の彼は進歩主義者を自称しているが、1990年の初めに自分の経済的なアイデアを売り込み始めた相手はドナルド・ラムズフェルドで、ラケットボール・クラブのサウナルームでのことだった。

1970年代、モズラーはバンカース・トラストでの仕事を通じて貨幣についての正統でない考えを得た。モズラーの一番のパッションは、賢い人たちが間違っていることを証明することにある。それが人々に真剣に受け止められないなら、彼は闘う。

そこで、カンザスシティーの完全雇用・物価安定センターとバード大学のレヴィ研究所に対し学術研究のための資金提供を始め、自分の観察結果を形式化し思考体系として肉付けしていくことを目指した。彼が支援した経済学者たち―ケルトン、L.R・レイ、パブリナ・チャーネバ、スコット・フルワイラー、マシュー・フォステイターは、彼らのアイデアを現代貨幣理論(MMT)と呼ぶようになった。

MMTの理論家たちは貨幣をめぐる混乱が、経済の健全性に影響を与える実質的なもの (天然資源、技術、利用可能な労働力) から経済学者たちを遠ざけていると考えている。貨幣は政府がそうした変数を管理し、社会問題を解決するために使う道具だ。政府がプロジェクトに資金を出すために考慮しなければならない資源は、予算の多寡とは関係がない。

モズラーは、多額の資金を捻出し、多額の債務を抱える政府に大金を賭けることで、このことを示し絵見せた。同氏はHuffPostのブログで、「不換通貨、変動相場制の政府にはソルベンシー(支払い不能になるかどうか)の問題は生じない」と書いている。

ケルトンのバージョンはもっとシンプルだ。「貨幣は金持ちのところでは育たない。」

問題は生じないが影響力ならある。モズラーには当時から大金持ちの知己が多い。その一人は、ジョージ・W・ブッシュ大統領の寄付金管理を担い、ハーバード大学や自身のために何百万ドルもを稼いだモーリス・サミュエルズがいる。サミュエルズはMMTに親近感を持っていた。彼は1990年代にモズラーに触発されたトレードでイタリア・リラに賭け大儲けしたのだが、2013年にはウォール街のOB仲間であるアンドレス・ドロヴニに、MMTについてのディナーを主催してケルトンに説明してもらえばどうかと勧めた。

ケルトン自身は、派手な銀行取引を通じてMMTに到達したのではない。父親は軍人で、彼女の子供時代はイリノイ、カリフォルニア、ノースカロライナを転々とするものだった。1991年、ある家具店の給料が自分のささやかな野心を満たすには十分に思え大学を離れた。数年後、大学に戻った彼女は、主流派の経済学者が長い間見捨てていたアイデアに魅了されることになった。卒業後、ジョン・メイナード・ケインズの総本山英国ケンブリッジ大に留学した。

1990年代にケインズ経済学を勉強することは、権力や富への近道ではなかった。当時、ワシントンの民主党上層部でさえ、ケインズは大恐慌時の特別なもの以上のものとは考えていなかった。経済学のホットな論点は、イノベーション、創造的破壊、情報技術で未来を描くことであり、20世紀の政治問題は時代遅れになった。

ケルトンは、プロ以外のアウトサイダーたち、リベラル派のブロガーや無名の経済学者、オタク政治活動家など、プロの部外者の間で働くことに慣れていった。単著の出版が決まり、ロングアイランドのノースショアにカヤック専用ドック付きの家をもった今も、彼女のパーソナリティは中西部の目の大きな少女とそれほど変わらない。ストーニーブルック (彼女は今ニューヨーク州立大学の『不平等および社会正義と政策の研究センター』で教えている)のお気に入りの場所は、きらきらとした赤いビニールの装飾を施したクレージー・ビーンズというキッチュなダイナーだ。

ドロヴニからの連絡が来たとき、彼女はそれは数人の友人グループのちょっとしたイベントだろうと思い、マンハッタンの21クラブに立ち寄ってMMTの説明をすることに同意した。

「ところが、何十人もの人が集まり2時間も話すことになっていたのです」とケルトンは言う。「私には、話すためのメモもありませんでした、なんにも。」

21クラブはクレイジー・ビーンズではない。社長やCEOたち、そしてアーネスト・ヘミングウェイからジェイ・Zまでの著名人に愛される高級ダイナーで、メニューには、180ドルのスズキ、四桁のワイン・ボトルがある。ロヴニの会社はマクロ経済調査会社と名乗ってはいるが、どちらかというと、超金持ちで風変わりな知識人のための高級会員制クラブといった趣だ。たとえばピーター・ティール。島を所有する金融グルであり、待遇がよくないからという理由でゴールドマン・サックスを辞めたご仁だ。

ケルトンは何度か深呼吸をした後、話を始めた。ヒットした。「彼女を議会に送りたがったヤツもいたね。」とドロヴニは振り返る。ドロヴニが顧客に送るノートに寄稿して、ケルトンはFRBの経済運営に革命をもたらす可能性があり、ケルトン曲線と呼ばれる新しい経済指標の普及を目指させたいと書いた者もいた。その受信者の一人、BNPパリバ証券のチーフエコノミスト、ジュリア・コロナド氏から個人的な説明を求められるなど、質問が殺到した。

ケルトンの話に耳を傾けていると、彼女が「銀行家」や「ウォール街」という言葉を使うとき、彼女の政治的な仲間たちがこれらの語を使く時によくやる嘲笑的なトーンが皆無であることに気づくだろう。彼女は「金融コミュニティ」という言い方をする。彼女は巨大金融産業からの政治的な圧力が正しい方向性からほど遠いものであることを完全に意識しているが、それはドス黒い暗黒世界というよりは風変わりなサブカルチャーのようだと捉えている考えている。結局のところ民主党が彼女のことを真剣に受け止めるより先に、ウォール街が彼女の味方になっていたのだ。

「金融コミュニティは、非伝統的な議論でも説得力があれば非伝統的であることは気にしない。」と彼女は言う。「彼らは正しさを望んでいる。」問題は現実のマネーだ。斬新なアイデアは競争優位につながる。

対照的に、ワシントンでは正しさがほとんど問題にならない。政治家が経済学者に求めるのは、世界がどのように機能しているかについての新しい洞察ではない。経済学者の役割は信頼の盾になることだ。政治指導者がやろうとしていることには非常に複雑で洗練された理由があることを大衆に確信させるために駆り出される専門家の役割だ。ワシントンにおける経済学の仕事の大部分は、本来不確実な政治判断に科学的なお墨付き与えることだ。このことは何も大きな政策変更だけでなく、成長率や歳入の見通しといった直接的な課題にも当てはまる。

その仕事は、言い換えればチームをバックアップすることだ。政策判断が間違っていても、チームの他の全員が同じことを言っているなら、それほど大きな問題ではない。例えば現在の民主党は、クリントン政権時代に推進した銀行規制緩和は過ちだったと見なしているが、バラク・オバマ政権ではそれを支持する経済学者たちが重要な地位に就いていた。

結果として、政治に関わる経済学者たちは正統性に拘る。政治経験のある人は誰も、過去の経済政策がなぜ間違っていたのかを説明する新しい考えを歓迎しない。しかしもしケルトンのMMTドクトリンが正しければ、ほとんどすべての政治家が政府債務、財政赤字について、それどころか、お金について語ってきたことのほとんどが間違いだったことになる。

「基本の考え方は政府が資金を使い果たしてしまうことはないということです」とケルトンは言う。「政府がお金を作っています。普通に支出するときにできるのです。」

人々はよく、政府の放漫のせいで孫たちが破綻するとか破滅的な債務危機が引き起こされるなどと言うが、ケルトンは、それは支出を賄うためにどこか外からお金を得なければならない家庭の日常と、基本的な活動の中で常にお金を生み出す主権政府の動態を混同しているのだと主張する。

ケルトンは2000年に発表した彼女の最も重要な学術論文の中で、政府の活動資金は税の徴収や債券の発行で調達されているのではないと主張している。そうではなく、政府が支出することにより、それまで存在していなかった貨幣が生み出されているのだと。政府が道路を建設する場合、請負業者に電話をかけ、その代金は銀行口座に振込んで支払う。このお金はどこから来るのか? すべてのお金は同じところからやって来る「無」からだ。

これが意味することはいろいろあるが、とりわけ大きいのは、政府はいつでも望むものに支払いができるということだ。住宅、医療、戦車など、何にでも。但し、それは政府が何の影響もなしに無限の貨幣を使うことができるということではない、と彼女は強調する。最終的には、流通している貨幣の量が労働力の生産能力を上回るとインフレの問題が生ずる。

しかし、インフレでさえ政策の選択肢を絶対的に制限するものではない。インフレに対抗するための選択肢としては、連邦準備制度理事会が金利を上げたり、議会が貨幣の流通を抑制するために増税したり、さらには価格統制策もある。いずれもマイナス面はあるが、状況によっては政府支出を削減するよりも望ましい場合はあり得る。すべては社会が何を必要としているかにかかっている。ケルトン教授は、こうしたニーズこそが第一に検討されるべきことだと考えている。連邦財政赤字への直接的な影響ではない。ワシントンではそれが政策論争を支配する指標になっているが。

左翼にとってこのアイデアは間違いなく魅力だ。ケルトンの研究からは、過去35年間インフレ率は低水準にとどまっているのだから、民主党には社会保障やメディケア (高齢者向け医療保険) のみならず、これらを拡大し新しい野心的プログラムを提案するだけの十分な財政的余裕があることが示唆される。一方MMTは、超富裕層の一部の人々にとっても魅力的だ。なぜなら、そうしたプログラムの費用をそれほど心配する必要がないのなら、その支払いのために増税する必要がないということになるからだ。

ドロヴニは21クラブでのディナーの後、カリフォルニア州サンタモニカで開催した小さな特別会合にケルトンを招待した。そこでクリントンの財務長官でオバマの経済顧問でもあるラリー・サマーズがいた。サマーズはケルトンにMMTの40ページに纏めた資料を送ってくれと頼んだ。2013年10月にはケルトンは、コロンビア大学でノーベル賞受賞者でクリントン政権の元顧問ジョセフ・スティグリッツと共に登場し、ステージからMMTについて説明するほどになっていた。さらにこれを聞いたチャールズ・シュワブの依頼で、彼女はその翌月ハーバード大でのカンファレンスで講演することになった。

彼女のキャリアは一変した。彼女はもはや単なる奇抜なアイデアを持った賢い経済学者ではなくなった。ウォール街の信頼を得た彼女は、学会からの有力な発言者と見なされるようになった。

彼女が「銀行家」や「ウォール街」という言葉を使うとき、彼女の政治的な仲間たちがこれらの語を使く時によくやる嘲笑的なトーンは皆無

金融エリートとの関りがケルトンのキャリアの突破口となったが、それが米国の左派への突破口につながったのは大いなる皮肉だ。2014年の秋、彼女はサンダースからの電話を受けた。サンダースは上院予算委員会の委員となったのでチーフエコノミストが必要だった。

「我々が欲しかったのは、エスタブリッシュ経済学者たちの部屋に乗りこんで皆さん違いますと言えるような人でした。」とサンダースの政策責任者であるウォーレン・グンネルズは言う。

それはまさに、MMTについてウォール街で講演するたびにケルトンがしてきたことだった。「私は分かっている人たちへの講演はしません。」と彼女は言う。「いつもライオンの中にいる感じ。でもみんな好きになってくれる。」

左派経済学者は何千人もいる。しかし、経済の専門家以外には素晴らしい創造性と単に奇抜なものを区別するのが難しい。ウォール街という社会的信用が彼女を際立たせた。

サンダースはまた、彼女の野心的な政策ビジョンが気に入った。しかし、彼にとってより重要だったのは、彼女が語ったフランクリン・D・ルーズベルトの話だったのだろう。予算委員会で何をすべきかというサンダースの問いに対し、ケルトンは1944年ルーズベルトの未完のアジェンダ― an economic bill of rights.を取り上げるべきだと提案した。アジェンダのお一番はこれだ。「良い仕事を、すべての人に保証」。

サンダース氏は、予算委員会のマイノリティグループのチーフエコノミストに彼女を採用し、サンダースが大統領選に出馬したときに、彼女は選挙運動のアドバイザーになることを受諾した。

サンダース議員も他の大半の政治家と同じく、経済理論の研究から経済政策のアイデアを得ているわけではない。数人の元スタッフによると、これは彼の道徳的直観の延長だろうとのことだ。彼はトマ・ピケティよりもフランシス教皇への関心が強い人物だ。サンダースがルーズベルトを好むのは、道徳的・政治的権利の一つとしての経済的正義について明確に力強く語ったからであり、ケルトンを好むのは、彼女がインフレだけでなく権利と正義についてもコミュニケーションがとれるからだ。

ストーニー・ブルックで教えるとき、彼女は単調な経済分析の図やグラフを、現在の出来事や多くの歴史的な事例で補って語る。今年度に取り上げて検証いるのは、1963年のワシントン大行進を組織した公民権運動の指導者A・フィリップ・ランドルフが提案した自由予算案だ。この1966年に提出された自由予算案は、「ほとんど完璧な文章です」とケルトンは講義の後に語ってくれた。彼女が特に気に入っているのは、著者が政府に公民権としての職業を要求していて、軍への資金提供など他の優先事項との選択とさせてはいないことだ。

「その仕事が仕事自身を賄います」と彼女は言う。つまり、仕事が社会的な生産物を新たに創出し、それが経済に入っていくからだ。財政赤字は重要ではなく、新しい労働時間が何か有用なものを生み出せるかどうかが重要だ。

ケルトンは、いま現在、仕事の余地が十分にあるのは明らかだと考えている。貧困や失業は貨幣経済におけるトリック論法であり、これらを排除することに物質的な障壁はない。

しかし多くの人々は、何らかの社会的な代償なしにこのような野心的な目標を達成できるとは簡単には信じられない。サンダースは、彼女語る経済的権利や社会正義には注目した一方で、より広範な理論の帰結には難色を示した。彼は何年にもわたって共和党による財政赤字を攻撃しており、それをあきらめたくはなかった。彼は、イラク戦争、ジョージ・W・ブッシュ政権のビッグファーマに友好的なメディケア (高齢者向け医療保険) 処方薬給付、ブッシュ減税といった政策に反対票を投じ、それらの費用は巨額すぎ、中産階級を真に支援する政策の資源を流用していると主張してきた。急進的な理論家ケルトンとしては、サンダースには赤字を忘れてほしかったのだが、政治家サンダースは、金持ち課税によって政策の財源にしたかった。

グンネルズの言では、サンダースは「富裕層や大企業は相応の税金を支払う必要があると考えていて、それを使って崩壊しつつあるインフラやメディケア (高齢者向け医療保険) を再建し、すべての米国人の学費をまかなうことができると信じている。」ケルトンがサンダースに採用される前に、それぞれの理論的な違いについて話し合いがあったという。「彼はステファニーがそれを理解していることを確認したかった。彼女が議員サンダースのアジェンダを前進させるために動いていたかどうかを。」とグネルスは言った。

サンダースのアジェンダは、その野心にもかかわらずそれほどクリエイティブではなかった。リベラル派お気に入りの既存のプログラムを拡大しただけだ。最低賃金を引き上げる。公立大学の授業料は減額でなく、無料に。すべての人がメディケアを利用できるようになり、保険の適用範囲も広がる。ケルトンはそのどれにも違和感を感じなかったが、彼女の経済学的な考え方に特徴的な部分はほとんど何もなかった。

彼女は、自分のボスは、金持ちへの増税と経済成長からの税収増で、やりたいことをすべてやろうと主張することで罠はまっているのだと感じていた。彼女は正しかった。事務所がマサチューセッツ大学アマースト校の経済学者ジェラルド・フリードマンにサンダースの政策のコスト計算を依頼したところ、そのモデルは楽観的すぎる仮定に頼っていると結論された。民主党の対抗候補だったヒラリー・クリントンに同調する経済学者らは、サンダースのやり方は財政的に無責任であり、経済的文盲だと非難した。サンダースのスタッフは自分の記憶に頼っている。その数字は重要でなかったのだが、それで計算するとボロが出る。

ケルトンは、キャンペーンの知的正当性を示すため、経済学者たちを対象にサンダースの個々の政策を支持する署名を集めた。最低賃金15ドルを支持する人々から200人以上の署名を集め、銀行解体計画には170人の支持が集まった。これは簡単な仕事ではない。なぜなら、ヒラリーが民主党の指名を獲得する数カ月前のことで、その時期政治経験のある経済学者のほとんどはサンダースの負けを予想しておりヒラリーに嫌われることをする動機がないという状態だった。フリードマンでさえクリントンを支持していた。

しかし、2016年までに、ケルトンは目を見張るほどのコネクションを作っていた。ケーブルテレビのニュースでコロンビア大学の経済学者ジェフリー・サックス氏がクリントン大統領の外交政策を批判しているのを見て、彼女はサックスとサンダースとの間に他の共通点がないだろうかと考えた。それは自然なことではない。なにしろ1990年代のサックスは、新自由主義というショック療法(国家主導経済から市場原理に基づく価格や物流体制への迅速な移行)の提唱者だったのだ。ロシア政府の最高顧問を務めたが、この方法は大失敗に終わった。その後、左に寄ったもののワシントンD.C.の主要メンバーであり続け、MSNBCの「モーニング・ジョー」やご意見番であり、Aspen Ideas Festival、スイスのダボスで開催される世界経済フォーラムといった超エリート会議の中心メンバーでもある。

サックスはサンダースを支持した。彼をバチカンでの会議に招待し、上院議員は自分のヒーローの一人である彼のローマ法王フランシスコに会うことができた。サンダースは恩返しに、過去30年間で最も変わった政治連合の一員としてサックス氏の新著の序文を書いた。サックスとのつながりよりサンダースのワシントンでの信頼は高まり、選挙運動においてサンダースはカメラの前面に立つことになった。経済学は数学についてのものだけでなく名声に関するものなのだ。

ケルトンはサンダースの批判を決してしなければ、彼のスタッフにもしない。彼女は彼が好きで、選挙運動での自分の仕事を誇りに思っている。しかし、スタッフの言では、組織のトップである3人の白人男性によって彼女が十分に活用されていなかったことははっきりしていたそうだ。サンダース陣営内部での人種やジェンダー闘争は、たしかに最新のニュースではないが、ケルトンの扱いをジェンダー問題や能力差別や経済学会に蔓延する性差別と切り離すことは難しい。

国際的な主要職は男性経済学者が独占的に支配しており、また大学博士課程修了後の終身雇用は男性が86%を占めている。その一方、大学院に進む女性の数はほぼ20年間、約33%とほぼ横ばいだ。こジャーナリズムではあふれたことだ。主要な報道機関で経済政策を担当する人々は、こんな見方をする傾向がある。(ハロー!)。アメリカでは権力や専門知識は強いジェンダー意識に立脚していて、中でも近代的専門知識の代表的な形態である経済学は強いジェンダー規律に支配されている。

経済学者はこのことを認めたがらない。なぜなら、それは男性経済学者のステータスを貶めるものだから。経済学者を性別にみると、男性の方が保守的な見方をする傾向がある。結局のところ政治と、経済学的な抽象論よりも、社会的関係によって支配されているということを思い起こさせる。そういえば、当代最も著名な民主党の経済学者であるサマーズは2005年の講義において、「本能的な適性の問題」を理由に理工系の女性教授が少ないことを説明し、性差別を矮小化した。

サマーズな激しい抗議を浴び、すぐに謝罪した。しかし、経済学は未だに男性のの世界だ。ある昨年の調査では、人気掲示板 「Economics Job Market Rumors」 において女性経済学者がどのような言葉と関連して発言されたかを分析している。結果は次のとおりです。「もっと熱く」「レズビアン」「ベイビー」「性差別主義」「小娘 」「肛門」「結婚して」「フェミナチ」「尻軽」

ケルトンもこうしたことと無縁ではない。もし男性だったらゴムホースについての講義を受けることになったりはしないと知ってはいるが、カジュアルな会話の中で自分からそうした枠組みへの不満を述べることはしない。彼女が情熱を傾けているのは経済理論の方だ。経済理論という分野は最も男性支配が強い分野であるが、サマーズに対して女性への理解が間違っていると指摘するよりは、彼のケインズ理解が間違っているとの指摘がしたいのだ。

質問されれば彼女もその職業が地雷原になり得ることを認める。ケルトンはフェミニスト経済学を何度も講義してきたのだが、キャリアの初期には、育児や賃金格差のような明らかにジェンダー化された政策に関する研究を出版することは避けていた。

彼女も職業としての経済学者は地雷減との認識を持っている。ケルトンはフェミニスト経済学についてたくさんの講義をしてきたが、キャリアの初期ははっきりジェンダー的な政策、例えば子供のケアや所得格差といった政策研究を発表することを避けていた。

「基本的はアイデアは、政府の貨幣は尽きようがないということ。政府はただ支出することで貨幣を創造している」
ステファニー・ケルトン

「女性経済学者として頭角を現すのは簡単。」と彼女は言った。「私は経済学者です。」

普通なら、民主党左派として戦った大統領選で敗退すればキャリアの打撃となる。ところがクリントンがドナルド・トランプに敗北したことが党における専門家の序列を一変させた。さまざまな政府機関を運営することを期待していた彼女の経済学者チームは、サンダースのチームのようにシンクタンクや大学に目を向けている。

その結果、新しいタイプの知識人たちが、民主党の優先事項の策定に挑戦するようになっており、ケルトンは最も重要な経済学者の一人となっている。

学生ローンの免除についての経済的効果を教えたり研究する合間に、上院の少数党院内総務チャック・シュマー(ニューヨーク)の戦略会議に招待されるなど、サンダースのチームとの強い関係を維持しています。彼女はもう彼の上院事務所で働いてはいないが、進歩的な政策案を専門とするシンクタンクであるサンダース研究所のフェローだ。この2月、彼女はサンダースを人種間不平等の経済学を専門とする二人の経済学者、ダリック・ハミルトンとサンディ・ダリティと引き合わせた。ノースカロライナ州のデューク大学で教鞭をとるダリティと、ニューヨーク州のニュースクールのハミルトンは、ケルトン氏が最も気に入っているアイディアの一つであるジョブギャランティーの提唱者だ。

ケルトンもすでにMMT経済学者と同様の提案を行っている。しかし、ハミルトンとダリティの研究はケルトンよりもインフラにに重点を置いていてサンダースの興味を引いた。経済的、人種的不平等により直接フォーカスしているからだ。運営方法や雇用形態は異なものの、どちらの案も政府が1000万人以上を雇用するという想定だ。

その後サンダースは、ジョブギャランティが彼の次の主要な政策イニシアチブになると発表したし。法案の詳細はまだ発表されていないが、プログラムに参加する人は誰でも最低でも時給15ドルの賃金と健康保険を受け取ることができる。ワシントンのほぼ全員は、これが2020年サンダースの大統領選出馬の目玉になると見ている。

多くのリベラル派経済学者は懐疑的だ。ケルトン自身は計画のコストに焦点を当てるのを好まないとはいえ、そのコストは膨大だ。ハミルトンとダリティのバージョンでは年間5430億ドル、アメリカ経済の約3%だ。ケルトンの案は最初の五年間が年間3780億ドルでその後マイルドに上昇する。これによって労働市場が再編され、最低賃金は自動的に15ドルに引き上がり、必然的に大規模な企業再編が起こり、物価上昇の予測は困難だ。

物流も問題だ。連邦政府は、全国の州、地方自治体、非営利団体と連携して、何百万人もの人々を新たな仕事に就かせ、景気に変動対応した運営をしっかり行う官僚機構を構築する必要がある。

ケルトンははあまり心配していない。人々はこの考えについて真剣に議論している。議員の中には、財政赤字を飛び超えて、経済をどれだけ成長させることができるのか(年間数千億ドル)、あるいは、新しいスキルの開発維持によってどのくらい生産性を向上させることができるのか、を考える者もいる。四月には、新人のロー・カンナ下院議員(民主党カリフォルニア)はケルトンのことを「私たちの世代で最も思慮深く創造的な経済学者の一人です」と言い、彼女の考えは「議会の議論全体を動かした」と述べている。

彼女がこの国を動かせるかどうかは未知数だ。しかし、ゴムホースと怒鳴ったりする者はいない。

「雇用は権利であるべきだと確信しています。」と彼女は主張する。「価値が先です。技術的な詳細はそのあと。」