MMT Primer発売記念! L・ランダル・レイ:「日本はMMTをやっているか?」

出ましたね。
MMT現代貨幣理論入門(amazon

というわけで。


http://neweconomicperspectives.org/2019/06/japan-does-mmt.html

最近、世界の政策決定エリートたちはMMTから距離を置こうとしていて、MMTのアプローチは狂気じみていると断じて一蹴しようと極端にヒステリックになる現象が起こっている。日本人がいちばんすごい。

MMTが勢いを増すにつれて、世界中の記者たちから、日本はMMTの政策提言に従っている代表的な例なのか?という質問が殺到するようになった。

私の答えはいつも同じ:ノー。日本は、主流の理論と政策がすべて間違っていることを証明するには完璧な事例だ。と同時に、国を悩ますあらゆる問題に対して常に反MMT的政策を選ぶような国としても一番の好例だ。

そう答えると記者たちは驚く。日本の財政赤字は先進国で最大だ。政府債務比率は先進国で一番高い。

これってMMTの助言通りなのでは? ノー

ノー、それは主流のインチキ連中がみな間違っているということの完璧な証明だ。大きな赤字がインフレを引き起こす?ノー、日本のインフレ率は0を少し上回る程度しかない。(ここのグラフを参照 https://asia.nikkei.com/Economy/Growing-Modern-Monetary-Theory-debate-rattles-Japan-officials.)

多額の債務が金利上昇をもたらすか?ノー。日本の政策金利は-0.10前後だ(マイナス金利)。

多額の債務は国債発行を困難にするか?ノー。日本の国債は発行するや否や直ちに吸い取られている。(日銀がQEを実行し、何千兆円もの円債務があるにもかかわらず「欠乏」を作っているのでなおさら。)

MMTに批判的な人々は、日本は巨額赤字が投資と成長を損なったことの「証明」だと反論する。

確かに日本の成長率は年1%で、どうということもない。投資は約2%のペースで増加しているが、消費が足を引っ張っている。この数年間を平均すると、消費の伸びはほぼゼロだ。

そして高齢化により労働力が減少する中、失業率はわずか3%にとどまっている。一人当たりGDPはここ数年、約38,000ドルで停滞している(それほど悪くないが、成長してもいない)。また、日本の経常収支黒字はここ数年、GDP比1%以下から4%に急増した(ほとんどの評論家は良いことだと考えている)。

残念なことに、トランプの貿易戦争はすでに日本の輸出に打撃を与えている様子で、今年の成長見通しはかなり暗い。四月の消費動向指数は三年ぶりの低水準に落ち込んだ。 (https://www.focus-economics.com/countries/japan)

MMTの観点から見ると、日本に必要なのは良い財政刺激、但しそれはターゲットを絞ったものだ(脚注ノート)。日本経済には三つの注射器がある。財政赤字(過去数年間でGDPの7%から約5%に低下したが、注入はされている)、経常収支黒字、民間投資。必要なのは、国内消費需要が強く成長することだ。家計の需要が強まれば、そこに向けた投資が刺激されるだろう。したがって、採るべき財政政策は、日本の家計の経済的安全性を高め、その消費支出を増やすことをターゲットとした財政内容であるべきだ。

では、安倍首相が発表したプランは何か。消費税を引き上げて消費を抑え経済成長を抑制するそうだ。

ありえない。

これがいつもの日本の政策だ。経済が長期低迷から抜け出すそうになると、政策立案者はいつも財政赤字を削減するためにと緊縮政策を採り、それによって経済を不況に戻すので常に不況ということになる。

これはMMTが推奨するものとは正反対だ。しかし専門家たちすら日本はここ数年ずっとMMT政策に従ってきたと主張している。

なぜか。日本は巨額の財政赤字を抱えているからだという。MMTの政策目標とは大きな財政赤字、大きな債務比率であるかのようにいう。

ノー。我々はこう考えている。財政とは、完全雇用や包括的かつ持続可能な成長などの公益を追求するためのツールだ。日本は政策の誤りにもかかわらず、多くの合理的な措置によってうまくやっているのは確かだ。実際、米国と比較すると日本はかなり良い国のように見える。良質で利用しやすい医療、幼児死亡率の低さ、寿命の長さ、失業率の低さ、格差や貧困の少なさだ。しかし、財政収支はそれ自体重要ではないとするMMTビューを採用すれば、日本はもっとうまくできる。

しかしながら日本政府はむしろMMTを決して採用しないことを明確にしようとしている。麻生財務相は「財政規律を緩める極端で危険な考えだ」と述べた。

これを聞いて爆笑しなかった記者がいたのだろうか。日本の「財政規律」がMMTによって脅かされる?そもそも債務比率がすでに250%に近づいているのだが! 普通の計測法でいえば、日本の財政規律は世界史上最悪なのだが!

もっとすごいのが。「日本銀行の原田政策委員はMMTを攻撃し続けている。MMTの提案するアプローチは『間違いなく(急激な)インフレを引き起こす』と述べた。」

日銀は過去四半世紀にわたりインフレ率を2%に引き上げようと考えつく限りのことをしてきた。4兆のQE。マイナス金利。その日銀がMMTは急激なインフレを引き起こす可能性があると考えている?ワイマール共和国のライヒスバンクですら、日本で高インフレを引き起こすことはできないだろう。

OK、日本の政策担当者をからかうのはこのくらいにして。

大きな赤字(負債)比率を生成するためには、醜い方法と良い方法の両方がある。彼らが理解していないのはこのことだ。MMTは長い間これを主張してきたが、理解がほとんど進んでいない。その主な理由は、私たちが平易な英語を使ってきたからだろうか。経済学者は読解が苦手なのだ。彼らにとっては、図と数学は必須だ。ならば以下、彼らの役に立つ書き方をしてみよう。

で、名前を付けてみた。ラッファー曲線(Laffer Curve) 、フィリップス曲線 (Phillips Curve) ではないが、名付けてレイ曲線 (Wray Curve) だ。バーでナプキンに描いたのではなく、昨夜寝る前にメモ帳に書いたのだ。

経済が初期状態として点Aにあると仮定する。日本の場合、赤字比率が5%の、成長率が1%というところだ。現在、安倍首相が消費税を課したり米国が景気低迷に陥ったりで日本の成長率は低下するとする。すると経済成長が鈍化し、赤字比率は上昇するにつれ、経済は図の点Bに向かって左に移動する。

成長の鈍化は、家計や企業を脅かし、貯蓄しようと支出を減らし税収を減少させる。成長率の鈍化はまた輸入の減少にもつながり、経常収支はいくぶん「向上」する。部門間収支を見ると、政府収支は赤字(例えば7%の財政赤字)、経常収支は黒字(例えば4から5%)とすると民間部門の黒字は12%(他の二部門の合計)となる。

以上は財政赤字を増やす「醜い」方法。日本式だ。それは、まるで出血させれば病気を治すだろうといつまでも出血させているようなものだ。

MMTの対案とは何か? 企業と家計の自信を回復させることにターゲットを絞った、計測を伴う刺激策だ。老後の生活を保障する社会保障のセーフティーネットの充実。雇用と適正な賃金を確保するためコミットメントを作り直す。労働力の減少に対応するために出生を促進するか、移民を奨励するかする。グリーン・ニューディール政策を実施し、カーボンレスな未来へ移行する。

この場合、点Aから点Cに向かう曲線に沿うことになり、「良い」方法で財政赤字が増加し、成長率は改善する。

但し、赤字の増加は一時的なものであろうことに注意せよ。家計や企業が支出を始めるので、民間黒字が減少する。輸入が増えれば、経常収支の黒字も減る。だから税収が増えるだろう。税率を上げるからではなく、所得が増えるからだ。財政赤字は、国内民間部門の黒字が減少するにつれ減少するだろう。赤字の減少が正確にどの程度になるかは、民間部門の黒字と経常収支の黒字の動向にかかっていて、単にそれらの合計と等しくなる。

上のグラフで言えば、レイ曲線が右にシフトする。点Aの赤字比率における成長率はより高いということになろう。点Aにおける「自然な」赤字比率は存在しない。それは他の二部門の収支次第に依存する。

米国で考えると点Aは、日本と比較すると成長率が高く赤字比率は同程度というところだ。今の米国の経常収支はもちろんマイナスなので、この点では日本より財政赤字率が大きくなる方向。また、どこの成長率をとっても、民間部門の黒字は日本のそれよりも小さく、この点では財政赤字率が小さくなる方向。米国の赤字比率はこの二つの効果が相殺し合い、日本と同程度ので約5%で、成長率は日本より高い。

ここで、「逆ラッファー曲線」のようなものを勧めているのではないことに注意されたい。ラッファー曲線とは、減税は「それ自体を賄う」以上の効果があり、トリクルダウンにより財政赤字を解消するのに十分な歳入増がもたらされるとするものだった。私は、財政支出を増やし経済を刺激すれば税収が増え、赤字比率が元の水準(以下)に戻ると主張しているのではない。実際にどうなるかは、他の二部門の収支に依存している。

財政赤字の大きさそのものは重要ではない。重要なのは、政府の財政政策が公益と民益の追求に役立つかどうかだ。財政赤字の数字は、常に他の二部門との「ぴったりバランス」に常に調整される。この等式は、低すぎる成長率(デフレの)状態でも高すぎる成長率(インフレの)状態でも、どんな成長率になる場合でも成立する。

また、部門間バランス式は、どんな財政赤字比率にも当てはまる。ゆえに、景気刺激策に首尾よく成功すればレイ曲線は右にシフトする可能性が高いのだが、成長率が上昇するにつれ財政赤字比率がどこに落ち着くかを正確に予測することはできない。

このグラフで最も重要なことは、赤字比率がある値だとしても、少なくとも二つの異なる成長率がありえるものとして存在するという理解だ。赤字比率が同じでも、成長率が「醜い」ことになる道もあれば、「良い」ことになる道もある。日本は財政拡大を恐れるあまり、「醜い」赤字を出すための経済を運営し続けている。

財政赤字に関するこの議論の詳細は、新しい教科書のここを参照。 Mitchell, Wray and Watts, Macroeconomics (Macmillan International, Red Globe Press), Chapter 8, 特に pp. 124-128.(訳注 この部分の日本語訳がこちらに


【脚注ノート】
私は、日本のゼロ成長は幸福な状態ではなく、多くの国内ニーズが満たされていない状態だと推測している。私は「成長のための成長」は支持しない。特に、このままでは人類にとって地球で残されている時間が10年ほどしかないかもしれないという認識の高まりを考慮すれば、私たちは早急にやり方を変えなければならない。、「やり方を変える」ため日本のグリーン・ニューディールへの大規模投資が必要であり、ゼロ成長だとしても財政政策を強化する役割があるのだ。