ピーター・コイ, カティア・ドミトリエワ, マシュー・ベスラー「ウォーレン・バフェットはそれを嫌う。AOCはそれを支持する。初心者のための現代貨幣理論(MMT)入門」(2019年3月21日)

Warren Buffett Hates It. AOC Is for It. A Beginner’s Guide to Modern Monetary Theory

Peter Coy, Katia Dmitrieva, Matther Boesler From New Economy Forum

突如議論を巻き起こした、かつては異端だった経済学派の思想の概説

現代貨幣理論(MMT)を巡って多くの議論が飛び交っている――いくつかは金切り声だ。批判者達は、現代貨幣理論は注目を集めているだけの出鱈目だ、と呼んでいる。ベントレー大学の経済学者スコット・サムナーは最近自身のブログで「MMTが構築しているものは、マクロ経済学に関する奇妙で非論理的で複雑怪奇な考えであり、真っ当に議論するに値しない」と主張している。MMTの支持者らは、批判者達は真っ当な論拠を受け入れることができていないからだ、と反論している――オーストラリアのMMT論者であるウィリアム・ミッチェルに言わせると「批判者自身が、信頼性を失った時代遅れのパラダイムの部品の一部だからだ」と。

このような混乱状態はよくない。現代貨幣理論は、かつてはブログや一握りの大学――カンザス・シティにあるミズーリ大学など――で限られた活動を行っているに過ぎなかったのだが、今や突如として注目の的になっているからだ。アメリカでは民主党左派が、MMTを引用して、化石燃料からの脱却を目的にしたグリーン・ニューディールや国民皆保険制度への巨額の政府支出を正当化している。MMTが、2020年の大統領選で争点化するのはほぼ確実だ。なので、今こそ現代貨幣理論について少し深入りする時だ――MMTとはいったい何なのか? ルーツはどこにあるのか? 長所と短所は?

幸運にも、MMTの理論に基づいた最初のアカデミックな教科書が、2月に出版されている。シンプルに『マクロ経済学』と題打たれた573ページの大著は、オーストラリアのニューカッスル大学の経済学者ミッチェル、ニューヨーク州アナンデール=オン=ハドソンにあるバード大学の経済学者ランダル・レイ、そしてニューカッスル大学の名誉教授マーティン・ワッツによって執筆されている。本記事は、この教科書と、MMT論者と批判者による学術論文やブログ記事に基づいて執筆されている。

最初に簡単に理解できるシンプルな説明から始めよう:MMTは以下のような提唱を行っている。アメリカのような自国通貨を持つ国家は、債務をどれほど多額に抱え込んでも心配する必要はない。どんな時でも求められた利払いに、さらなるマネーを刷ることで対応することができるからだ。なので、支出はインフレだけに制約されることになる。ここでのインフレとは、公共部門と民間部門が同時に多額の支出を行った場合に発生する可能性があるインフレのことだ。需要の増加に対してインフレを高進させることのない十分な労働力と設備がある限り、政府は雇用の維持や気候変動を食い止めるような目的の達成に必要な支出が可能となっている。

読者はここまで理解できれば、MMT批判者の多くに先んじていることになる。MMTは左派に紐付いているので、社会政策を行うために富裕層に法外にふっかけようとしていると、〔批判者の〕幾人かは邪推している。これは事実誤認で、MMTは富裕層課税は格差の縮小するために有用な手法だとしつつも、政府支出を行うにあたっては必要なわけではない、と主張しており、古臭いリベラルの教義を棄却している。「赤字はまったく問題ないとMMTは言っている」というのも別の誤解だ。3月13日に、シカゴ大学のブース・スクール・オブ・ビジネスが、桁はずれの赤字は激しいインフレを産む可能性がある、とのMMTの見解を無視し、上記のような誤解に基づいて、著名な経済学者らに調査を行っている。調査対象になった教授らは、この〔誤った〕説明に従ってMMTに激しく不同意を示した。MMT論者達は、激しく抗議している。

現代貨幣理論は、現世界は、ニクソン大統領が「ドルはもはや金に兌換しない」と宣言した1971年の金本位制の終焉に未だ対応できていないと主張している。MMTは、「不換」紙幣の時代である現代においては、アメリカ合衆国や他の経済大国は、紙幣の保証に十分な金の保有をもはや心配する必要はなく、国家は必要に応じて自由に紙幣を刷ることができる、と主張している。

「今日は火星からの発表者にお出で頂いたようですね!」

MMTは、大恐慌期にマクロ経済学分野を創始したイギリスのジョン・メイナード・ケインズの正統な理論的後継者であると主張している。ケインズは「倹約のパラドックス」という言葉を造りだした。ケインズが洞察したのは、一家計に限れば収入が低下した時は支出を削ることによって苦境から脱すことができるが、経済全体おいては支出を削っても苦境から脱することはできない、との事実だ。ある世帯の支出は、別の世帯の収入なので、もし皆で支出を削れば、誰もが収入が得られなくなる。結果、不況が発生することになり、これは政府だけが解決できる状況となる。なぜなら、民間セクターとは違い、政府は十分な支出を好きなだけ行うことができ、人々のポケットにお金をねじ込むことで、経済を〔正常な〕軌道に戻すことができるからだ。

ケインズの思想は、数十年かけて、ポール・サミュエルソンのような後継者達が、基礎的要素である不確実性の役割を軽視し、経済学を物理学のように非現実的に扱おうとしたことで、骨抜きにされたとMMTはみなしている。MMT論者は主流派学派の思想を「バスタードケインジアン(偽ケインジアン)」(故イギリスの経済学者ジョーン・ロビンソンの造語)と呼び、自らを主流派から敵視されるように振る舞ってきた。

MMTはまた、ロシア生まれのイギリス人経済学者アバ・ラーナーが1940年代に提唱した「機能財政」理論を取り入れている。「機能財政」とは、政府は目的を達成するためには赤字を気にせずに必要に応じて支出せねばならない、との理論だ。この後、イギリスのウェイン・ゴドリーが、セクター間収支のアイデアとして発展させることになる。ゴドリーのアイデアは、政府部門が赤字を出した時は、民間部門は黒字でなければならなず、これは逆もまたしかりである、という会計的事実に焦点を絞ったものだ。

1990年代に入って、この新進気鋭の運動は米領ヴァージン諸島在住で、政治から双胴船のデザインにまで広い知的関心を持つヘッジファンドのマネージャーであるウォーレン・モズラーによる財政的・知的援助を受けるようになる。そして、懐疑論とぶつかることになる。ミッチェルは経済学の学術会議でMMTの考えを発表した時のことを思い起している。出席者の最初コメントは「今日は火星からの発表者のお出で頂いたようですね!」だったのだ。

MMTは、経済のコントロールで優先すべきは金利の上げ下げである、との〔主流派経済学の〕現在の統一見解を棄却している。MMT論者達は、不換紙幣の世界における自然利子率はゼロであり、利子率を高く固定することは投資家層へのプレゼントだと考えているのだ。MMT論者は、企業は資金コストではなく、成長期待に基づいて投資の意志決定行う為、金利による〔経済の〕微調整は効果的ではないと主張している。

MMT論者は、経済は、政府支出と税制度による財政政策によって操作されるべきだと論じている。論者は、中央銀行は財政当局の意向に応じて行動することを求めている。つまり、財務当局の資金需要に応じて、中央銀行はキー操作でベースマネーをほぼ無からアコモデート(創出)し、財務当局の当座預金口座に振り込むことを求めているのだ。MMTの新しい教科書によるなら、〔このMMTの求めとは逆に〕今日、政府は「金融政策のスタンスに矛盾しないように、財政政策のスタンスを不条理なまでに厳格に運用する傾向がある」とのことである。

MMTは、銀行は預金を元手に融資を行っている見かけと逆である、と主張している。見かけと逆、つまりは、銀行は貸し出し需要に応じて融資を行っており、その時に銀行からの借り手は借り入れた額を銀行に預け入れ〔預金が創出され〕ている。借り手が誰かに〔預金口座を持つ銀行の〕小切手を書いてお金を貸し出しすと、それはただ単に他銀行に小切手の受け手の預金が創出されることになる。言うならば、預金は融資の発生源ではなく、融資が預金を生み出しているのだ。これは、ドイツ連銀を含む保守的な中央銀行家でさえも認めているMMTの一要素である。

MMTは、雇用を安定させるために、連邦政府が拠出し、地方政府が雇用保障(ジョブ・ギャランティー)を公的運営することも提言している。政府は好況期より不況期に多く人を雇うことになる。これは、バード大学のレヴィ経済学研究所のパブリナ・チャーネバが実地計画を精緻化している。ニューヨークのブロンクス地区から下院議員に初当選した民主社会主義者であるアレクサンドリア・オカシオ・コルテス(AOC)は、雇用保障(ジョブ・ギャランティー)を支持し、MMTは「私たちの議論のより大きな部分」であるべきだ、と主張している。

MMTは、財政赤字の増加は、その他が均衡している限りにおいて、金利を高騰させる傾向がある、という伝統的経済学のコアの原理に異議を唱えている。このMMTの異議は、不思議の国のアリスにおける白の女王のような矛盾した話のように聞こえるかもしれないが、MMTに言わせると、これはまさに正反対なのだ。政府が追加支出を行った場合、民間部門はマネーを受け取り、銀行システムに受け取ったマネーを預けることになる。銀行システム内にマネーが増えてもそのマネーに対する需要が増えない場合は、金利は高騰ではなく低下する傾向がある、とMMTは指摘している。つまり、政府が国債を売却することで準備預金を吸収することを選択しない限り、金利は上昇しないのだ。 

政府が支出を行うのに、財務省有価証券を売却したり、税金を課す必要がない理由は、財政当局のコントロール下にある中央銀行が、キーボードマネー〔MB〕を練金することで、全てを支払うことが可能となっているからである。ただMMTが理想とする世界でも、税の存在価値はまだ残っている。MMTの理想世界における税の主目的は、不平等を減らすことの他に、インフレを抑制コントロールするための「オフセット(相殺)」手段なのだ。税は、経済全体の総支出が過剰に至らないように、消費者や企業からマネーを適正に吸い上げるものとされている。

MMTの財政政策のコンセプトは、主流派経済学の財政政策と本質的に同じものとみなしたくなる――「おや、MMTだって税が必要だとおもっているんじゃないか!」――と。しかしこれはあまり正しくない。MMT論者は、インフレの主要因は過熱した強い成長ではないと考えている。インフレは、企業が過度の価格設定能力を有していることに問題があると考えているのだ。なので、MMT論者達は、経済成長を抑制することでインフレの鎮静化を試みる前に、独占企業の解体や、市中銀行による過剰融資を止めることを試みるべきだとしている。3月1日のフィナンシャル・タイムズのアルファビル・コラムで「我々は、公共福祉のために、大企業を積極的に規制しなければならない。規制すればするほど、我々は完全雇用をより完璧に達成することができるのだ」と3人のMMT論者が主張している。

この教義故に、ウォール街では時に「MMTは金のなる魔法の木だ」と揶揄され、声高に批判されるのも不思議ではない。より驚くべきは、前財務長官で前ハーバード学長のラリー・サマーズのようなMMTに当然同調していると思われているリベラルな経済学者達が、MMTの考え方に対して、大量の激しい批判を行っていることだ。サマーズは、先進国は「長期停滞」に苦しんでおり、景気停滞を避けるために政府による恒常的な財政赤字による刺激策が必要である、とMМTの主張と似たような処方箋を提唱している。しかしながら、最近のワシントン・ポストの論説でサマーズは、MMTを「重層的な誤りがある」と批判した。

サマーズや他のリベラルな経済学者達は、自身らが依って立つ従来型のハト派の財政赤字観に、MMTが汚名を着せることを心配しているかもしれない。ノーベル賞経済学者でニューヨーク市立大学教育センターの教授であるポール・クルーグマンは「標準的なマクロ経済学は全て間違えているとMMT論者達が言い続ける限り、反論する必要があるだろう」とニューヨーク・タイムズのブログで書いている。

MMTの批判者達は、財政政策を使用して経済を操作しようとする試みは、議会や大統領は不況に対して過去に迅速な対応をほとんど行えなかったことでもって、失敗が証明されている、と論じている。また批判者達は、政治家が、国民に痛みを課すような増税や歳出削減によって、インフレの鎮圧を行うことも期待できない、と主張している。MMT論者達は、自分たちも裁量政策での経済の微調整には反対しており、代わりに経済の軌道安定には、雇用保障(ジョブ・ギャランティー)を含む、自動安定化装置を求めているのだ、と反論している。

MMTの批判者達は、財政当局と中央銀行が協調すべきだという考えに懐疑的だ。FRBは、第二次世界大戦中は、財務省の入札〔直接引き受け〕に応じたが、その後、〔財政当局の〕この「与信」特権は散発的にしか使用されず、1981年には完全に終わることになっている。これはまさに、経済学者達が、従属的な中央銀行はインフレの制御ができなくなってしまう、と警鐘を鳴らしたからだ。批判者達は、雇用保証を行う際の政府の支払い賃金があまりに低い場合は、失業者や経済の救済として役に立たないだろうし、逆にあまりに高すぎる場合は、民間雇用を毀損するだろうと主張しており、雇用保障にも懐疑的だ。チャーネバの計画では、雇用保障は時給15ドルと提唱されている。MMTは、公的雇用された労働者は、経済が活気づけば民間部門に戻っていくと想定している。ただ、この場合、政府部門のいくつかが機能しなくなってしまうかもしれない。レイは電子メールでの質問に、公的雇用制度は周期的に変動しても制御可能である、と答えた。

MMTの批判者達は、自国通貨を持つ国は赤字について心配する必要はない、というMMTの保証を棄却している。世の投資家の信頼を失った国家は、結局は通貨の急落に至るであろうことが示されているからだ。最近の事例では、1976年にイギリスは、ポンドの価値を安定化させるために、IMFに助けを求めざるをえなくなっている。レイは、イギリスは、自国通貨ポンドをドルに連動させる過ちを犯したからであり、ポンドの変動を認めたことで通貨危機は治まった、と主張している。

これ以外の意見の相違は、素人には理解するのが難しいものとなっている。例えば、金利の決定プロセスや、政府部門と民間部門が貯蓄を奪い合っているのかどうか、等々を巡って込み入った論争が行われている。主流派の経済学者達は、MMTの内で正しいものは別段新しいものでなく、新規な要素は間違えている、と主張している。しかしながら、MMT論者は、主流派の知的権威は――特に10年前の世界金融危機の予見に失敗したことで――近年その名声を維持できなくなっている、と主張している。大手証券銀行であるパシフィック・インベストメント・マネジメント社の前チーフ・エコノミストのポール・マッカリーは、「僕はMMT結社に入会はしていないですよ。ただMMTは『不換紙幣の世界に堅牢な建築物』を築いてみせた、と考えています」と話している。

ともあれ、新しい教科書の出版は、MMTをさらに勢いづかせることになっている。ポール・サミュエルソンはベストセラーになった経済学の基礎原理書の1990年版の序文で「私は自身による経済学の教科書を書くことができるなら、誰が法律を書こうと、高度な条約が締結されようとどうでもよいのだ」と書いているようにだ。バーモント州選出の無党派の上院議員バーニー・サンダースが2016年の大統領選に出馬した際の経済顧問を務め、ブルームバーグのオピニオン・コラムニスであるMMT論者ステファニー・ケルトンは、潮目が変わったと見ている。このストーニー・ブルック大学の経済学者がプレゼンテーションでよく好んで持ち出す格言がある。「私たちは最初は無視され、次に嘲笑され、さらには排撃されるでしょう。しかしそれこそ、私たちが勝ったということなのです」。